村の愛玩動物

ツヨシ

第1話

とてつもなく追い詰められていた。

営業職と言えば聞こえはよいかもしれないが、その実態は怪しい高額商品を訪問販売することだ。

売りつけると言った方が正しいか。

当たり前だが、いきなり来た知らない男から、本当に必要かどうかも疑わしい何十万円もする商品を買ってくれる人など、そうそういない。

当然と言えば当然だが、この仕事にはノルマがある。

会社は利益をもたらすために俺を雇っているのだから。

数は少ないが、毎月売り上げを上げている同僚もいるが、一言で言えば絶対にお友達にはなりたくないタイプの人間だ。

北川はそうではない。

そんなぶっ飛んだ人間ではなく平凡な男だ。

なんとか半年はこの仕事を続けてきたが、二か月ノルマを達成していない。

友人は多い方だとは思うが、それも尽きた。

この仕事を首になったら、次の仕事の当てがまるでない。

――ほんと、どうしようか、これから。

北川は山道を走っていた。隣の市に行くためだ。とりあえずだが。

――うん?

途中、分かれ道があることに気づいた。

それは舗装されていない、土の道だ。

この道を通るのは初めてではない。

しかし前に通ったときには、分かれ道に気がつかなかった。

見落としていたのだろうか。

古びていて新しくできたようには見えなかったので、おそらくそうだろう。

――この道はどこに通じているんだろうか?

隣の市にあてなど一つもない。

川北は狭い山道で無理矢理ユーターンをした。

そしてわき道に入った。


細く荒れた山道が結構な時間続いたが、しばらく走ると道の片側が開けてなにか見えてきた。

――なんだこれは?

その高さは七メートルくらいだろうか。

コンクリートの箱。

そうとしか言いようのない代物だ。

川北は車を建物に寄せて停め、車を降りた。

高さはあるが、それに比べるとその大きさはさほど大きくはない。

川北は建物を一周した。

上から見ると正方形で、横からだと少し横長の建物だ。

窓は一つもないが、反対側に鉄製の扉があった。

開けようとしたが、鍵がかかっていてびくともしない。

川北はその建物を眺めていた。

いったいなんなんだろうか、これは。

何に使うのだろうか。

考えたがわからないので、川北は車に乗り込んだ。

こんなところで時間をつぶしている暇などないのだ。

急ぎ車を走らせた。

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