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警察無線用のイヤホンマイクを耳に着けながら瑠依は坂岡と共に担当位置へと向かった。
藤森宅へ向かうチームがひとつ、そのほかその家の裏手に一組、人通りの多く公共交通機関が集まる駅方面と木々が多く隠れやすい都立公園がある方面にそれぞれ二組ずつと、通常の任意同行と比べたら配置されている人数はかなり多い。
なにせ相手は「魔法使い」だ。逃走手段に魔法のひとつ隠し持っていたとしても不思議ではない。
そう揶揄する人も居るが、実際任意同行とはいえ藤森を逃がすつもりは誰もなかった。
瑠依達の担当は公園方面へ向かう路地だった。
指示通りの場所を陣取れば、少し先に藤森宅の2階が見え、そのすぐ側に一組の捜査員達が居る。
位置的には藤森宅の裏側に当たる。藤森裕樹の自室が今見えているその窓の所だというのは地取りをしていた捜査員により確認が取れていた。
もし任意同行を拒否しようと窓から逃走を図った場合、という想定で窓下の捜査員や瑠依達はここにいる。
「……藤森はこっちに来ますかね?」
「なんだ瑠依、手柄欲しいのか」
「なっ、……というよりは、何事もなく終わって欲しいって感じですが」
瑠依の独り言に坂岡が茶化したようににやりと笑う。
手柄を得る為に必要のない逃走を望むのは不謹慎だ、と瑠依は思う。
任意同行を認め、そして素直に罪を認めてくれればそれで事件は収束する。
「まあ、下手に考えるな。んな緊張してたら出来るもんも出来ねぇぞ」
「……はい」
坂岡の言葉でいつの間にか肩に力が入っていたことに気付いた。深呼吸と軽いストレッチで身体を解していたその時、イヤホンに連絡が入った。
『――これから引っ張ります』
藤森宅に向かった女性捜査員のものだ。流石最前面に立たされた捜査員の一人というべきか、その声は落ち着いていて、友人をお茶に誘うような柔らかさだ。内容はともかく。
「馬鹿が出るか阿呆が出るか」
「坂岡さんのそれ、結局どっちがどっちなんですか」
「んなの時と場合による」
軽口を叩けるほど、瑠依も落ち着いてきたらしい。
ただそれも瞬きほどの間だった。
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