第26話 VS炎の魔王2 炎の軍勢
観客席にて。
「ふむ……やはりそうだろうなあ」
1人の黒ローブの男は、周りの観客の王の魔王が負けることを確信してる様子と、手元の水晶に映る数字を見て一息ついた。
そこには、オッズ表と書かれたものがあった。
〜〜〜〜〜
勝利予想
DPをかけることができます。
負けた側の人がかけたDPを、勝った側の人は追加で貰えます。
炎の魔王 ×1.00001倍
王の魔王 ×150倍
〜〜〜〜〜
倍率150とは……あり得なさすぎる。それほどまでに炎の魔王が勝つと皆思っているのだろう。倍率は低いが、安全に所持DPを増やせる機会だ。全DPを注ぎ込んだアホもちょくちょくいるらしい。
流石に全部はかけたりしない人がほとんどだが、王の魔王にかける人はほぼいない。
この倍率なら100DPくらいかける人間がいそうだが……
そんなことするよりも炎にかけて確実にDPを増やしたいものが多いだろう。
私以外に王の魔王にかけた人を、私は知らない。
「まあ……私もアホの類なんだろうな」
「お? 兄さん、王の魔王にかけちゃったのか? はは、まあ倍率が倍率だもんな?」
「あんた、あいつにかけたのかい!? 馬鹿なことをしたねぇ。結果がわかってる戦いなのに。」
黒ローブの男は、自分が声に出してしまったことに気づいて、苦笑いをした。
「で、どんだけかけたんだ? 50くらいか?」
周りの魔王たちが、物好きがいる、と興味津々でローブを見ている。
黒ローブは、嘘をつく必要もないので、正直に答えることにした。
「全部だ」
「……は?」
その瞬間、辺りが静まり返った。
「ん? あり得ないことじゃないだろ?」
「あ、あんた……」
周りが一瞬目を合わせて、一拍。
「ぎゃっはははは! アホだな、それは! アホすぎる!」
「お前終わったんじゃね? ギャハハ! お前見つけたら、速攻バトル仕掛けてやるぜ!」
周りの人間は、黒ローブのことを嘲る。
そのうち、黒ローブの周りには人がいなくなっていた。近くにいると、一緒に白い目を浴びるからだ。
黒ローブが王の魔王は勝つ、と宣言したこともあるだろう。
黒ローブは、それほど王の魔王の勝利を信じていた。
(それにしても敵を作る必要はなかったな……)
黒ローブはそのうち、やりすぎたか、と心の中で反省し始めた。
黒ローブは1人で、王の魔王のダンジョンを観戦する。
そのままどれほど経っただろうか。急に周りが騒がしくなった。特に後ろだ。
(なんだなんだ?)
黒ローブは後ろを向いて、目を見開いた。
「ふむ……君が王の魔王に全かけした物好きか」
「あんたは……」
そこにいたのは、見るからに高ランクの、派手な鎧。頭から伸びる大きな二本角。そして縦に割れた金眼と、鱗のような肌。
まさに、“龍”といった風の男だった。
「……“龍の魔王”」
「いかにも。見た目を偽るアイテムとかないのかな……」
龍の魔王は派手な見た目から、皆に正体がバレてしまうと黒ローブにこぼす。
「はは……それはご苦労さまですね。SSランクは皆そんなに目立つもんなのですか?」
「ああ。先ほど“妖の魔王”に会ってきたが……綺麗な女性だったぞ。青眼の」
「ああ……どうやら男たちに囲まれてるあの人のようですね。角……サキュバスとか、ですかね?」
「お、俺もそう思っていたところだ。サキュバス、が一番似合うよな」
黒ローブと龍は“妖の魔王”を見て、意気投合する。
「……いい女だ。」
「……だな。」
いつの間にか龍の魔王の威厳のあるような話し方は消えていき、二人は仲良くなっていた。
「……で、その鎧とか……Cランクくらいでしょう? そんなものまだ買えませね……“龍”さんからしたらもう余裕なんですか?」
「余裕なわけないだろ? まあ、今買える中では最上位レベルだが、その分DPかなり使ったからな。」
そのうち、黒ローブと、龍はかなり仲良くなっていた。
観客席にできた
黒ローブを嘲った魔王は龍の魔王の、背が凍る殺気を孕んだ眼光によって逆に離れるしか無かった。
「まあ、あんたが馬鹿なら俺もかなりの大馬鹿者だな。10000DPも賭けたし。」
「へえ……龍の魔王でもやはり“王の魔王”には興味を示されますか?」
「妖の魔王にも馬鹿にされたよ。てか、あいつとは絶対気が合わねえ……」
黒ローブ同様、龍の魔王も王の魔王にかなりのDPを賭けていた。黒ローブの魔王がSランクやSSランクでもない限り、黒ローブの全てよりも多いだろうDPだ。
「だが不思議と……“王”は勝つ気がするんだよなぁ」
「ええ……龍でもそう思うなら、私の判断は間違ってなかったですかね。」
「おいおい……買い被りすぎるなよ、照れるだろ? ……俺たちは皆元々、人間だったしよ、そんなことないだろう?」
龍はそう言って、手元の水晶に映る炎の魔王のダンジョンを進む王の魔王を見る。
「でも、炎のダンジョンを観戦するんですね。」
「フッ……あいつの配下はスケルトンしかいないだろう? だから魔王が強いかもしれない、と思ってな。魔王が攻め入っているし。それに、ダンジョンの構造なんてあいつと戦う頃には変わるだろうし。」
「…………」
龍の魔王はとても理にかなった返答を返した。
確かに、強化されているであろうスケルトンだが、魔物が一種類である。魔王を見た方が有意義であろう。
だが、黒ローブはさらに考えて、王の魔王のダンジョンを観戦していた。
(それにしても、魔王が攻めたらダンジョンはスケルトンだけ……迷路構造にしてもいつまでも時間は稼げない。迷路は道が繋がってないと設置できないし、持って2、3時間……一回層しかないだろうに、それは致命的だ。)
つまり、黒ローブは他に何かあると感づいていたのである。
それはたったの数分後、正しかったと証明されることになったのだが。
「……あ、そうだ、お前なんの魔王だ? 俺はバレバレだけどさ、お前のこと知らなかったわ。教えてくれてもいいだろ?」
「…………“蛇”だ。」
黒ローブの魔王は、龍の魔王はあまり魔王に向いてないな、と思いつつ、水晶に集中しだしたのだった。
=====
時は少し
「……よし、お前ら、行くぞ!!」
王のダンジョンにて。半透明の鬼の形をとったモンスター……ビートは、後ろに控える500を超える魔物に、号令をかける。
リーダーの号令に答えようと、魔物たちは腕を振り上げる。
『うお“お”お“お”お“お”お“!!』
ライオンにサイ、大人の腰ほどの身長と小さな二本角を生やす人型の魔物……ゴブリンと、多種な魔物たちが王の魔王のダンジョンに集まっている。
「しかし最初から迷路とは……ご主人のいう通りだな。時間稼ぎか? 卑怯な奴め。」
ランクがCに上がったビートは希少なスキル“人語理解”によって大きな声で愚痴をこぼす。
ダンジョン奥にいるであろう魔王を煽るためだ。
「ってん? なに!? ご主人のところに魔王が1人で!?」
ビートが迷路に入ろうとした瞬間、彼のご主人……炎の魔王から衝撃の情報が入ってきた。
(魔王がなにしてんだ? やっぱり諦めたか……それとも本体が戦わなきゃ勝てないくらい配下が弱いのか?)
ビートは一瞬理解不能な“王の魔王”の行動に不穏感を抱いたが、
「……どちらにせよ、好機ですねご主人! さっさとやっちゃってください!」
『ああ。それと、例の剣……絶対に持って帰るんだぞ。壊したり、無くしたりすんなよ?』
「へい。分かってますよご主人! ランク外の魔王……ご主人の足元にも及びませんものね!」
ビートは数秒炎の魔王と作戦を確認して、再び迷路の方を睨みつけた。
「よし、今度こそ行くぞ……っ! お前ら!!」
『うおおおおお!!』
そして今度こそ、迷路に入っていくのだった。
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