VS炎の魔王編
第25話 VS炎の魔王1 開戦
宣戦布告を受けた日から、きっちり30日。
時計の針がちょうど12で重なった瞬間、俺の意識は奪われた。
=====
「「う……ここは?」」
「ふむ。よく来た、王と炎よ」
意識が戻ると、目の前にダンディな男性……“神”がいた。
「全く……なぜお前らはこんな状況になってまで尻込みするのだ。もう1ヶ月が経つのに未だダンジョンバトルはなしと……」
「御託はいい! さっさとはじめさせてくれ!」
神がなにやらぶつぶつと言っている最中、俺の横から、くぐもった声がそれを遮った。
「……ライオン!?」
俺はそちらを見て……驚愕のあまり声を出してしまった。
横にいたのは、全身が燃え盛る二足歩行のライオンだったからだ。
「あ? なんか文句あんのか? 人型は多数派だが、俺みたいなのもたくさんいる……そこのやつが言ってただろうが。」
「え? ああ、そうだったな……お前が炎の魔王か?」
目の前の神を敬う気配すらない炎の魔王は、不良のような物言いで舌打ちをする。
「今から死ぬってのにバカなやつだな。そうに決まってるだろ。」
「……死ぬ? それはお前の方だよ」
「あ“あ”?」
「ふむ……そこまでだ、さっさとついてこい。……ああ、そうだ、最初にバトルを仕掛けた褒美に何か願いを叶えてやるとリアスが言っていたぞ。せいぜい頑張れよ。」
「「なに!?」」
俺たちの応酬を遮り、神はなんでもないかのようにポン、と爆弾を落とした。
リアス……他の神だろうか? もしかしたら最初にいた女の神かもな。
(なにはともあれ、ラッキーだ。これに勝てば……)
戦力の強化、×付き以外も、G以外も作れるようにしたり……生き残れる確率が上がる。負ける? それはすなわち死だからな。そんなこと考えても仕方ない。
「ふん……そんなもの必要ないと言ったんだがな」
「お? 王の魔王、勝ったら能力直してもらおうとか考えてるだろ。はっ……勝てるわけないのにバカな野郎だ。これ俺様の強化イベントだろ、絶対。ケケ」
炎の魔王……Bランクの魔王。きっと他の魔王も奴が勝つと思ってるだろう。だが……まだ誰も知らない。俺が30日で成長したことを。
通常、30日も必要はない。だって整備や準備にはDPを使う。ダンジョンが閉鎖されているため、DPは得られない。きっと100階層とか増えたらいるのだろうが……序盤に30日もDPを得られなくなるのは得策じゃない。だから皆ギリギリまで仕掛けないのだろう。
絶対に勝てるとわかっている相手でもない限り。
「おい、ついたぞ」
神が急にそういうと、白一色だった視界が爆ぜた。
突如として目の前に観客席が、両サイドには洞窟の入り口が現れた。
「うぉっ!?」
「……これは」
俺はこの配置と、観客席の斜め上にあるモニターから、ダンジョンの中の様子が見られるのだと理解した。
そんな俺を見て神が、説明をしてくれる。
「そうだ。各自手元にある水晶で選択した、どちらかのダンジョンの様子が見れる。モニターは司会進行の“審判神”の野郎が映るんだ。ったく目立ちたがりなんだからよ……」
神はそういうと、ぶつぶつと他の神の愚痴をこぼし出した。
審判神……また別の神だろうか。
(だが、いいことを聞いた。どちらかしか見れないなら……)
きっと、皆炎の魔王のダンジョンを見るだろう。雄二たちのことは隠せるはずだ。だったら────
「よし、お前ら、ダンジョンの前に立て。」
「「えっ?」」
急に神はそういうと、俺たちを掴んで両側に投げ飛ばした。
「ちょ、なにしやがるっ……!」
「う、うぉぉぉぉい!?」
俺たちは強制的に自分のダンジョンの入り口まで吹っ飛ばされた。
そして、矢継ぎ早に魔王たちが観客席に召喚される。
あっという間に観客席は埋まった。
「おいおい……俺様の勇姿を見たいって奴がそんなにいたのかよ……」
「……最初だからな、みんな観に来るだろな。」
まあ、
いつの間にか、俺たちを連れてきた神は消えていた。
(あの野郎……逃げやがったか)
こんなことになっているのは神のせいだ。いつかはあいつらをぶん殴れるようにならないと……
そのまま待っていると、すぐにモニターが繋がった。
『あー、あー、よし! お前ら! よくぞ集まった!』
モニターには、全身金と黒だけで構成されたアンドロイドのようなものが映し出された。それは、黄金のハットを外すと、こちらに向かって礼をした。
神の割には最低限の礼を
『お前ら、魔王なら御託などいらんな! これより“王の魔王”と“炎の魔王”による第1回、ダンジョンバトルを開始するぜ!! 司会は俺、審判神“ジャッジメント”がお送りするぜ!』
観客席の魔王がうおおおお!! と湧き上がる。声は聞こえないが。
てか、神様も名前そのまんまでいいのか……?
『よっしゃ、じゃあコアルームに送ってやるから5分後にここに来い! そしたらスタートだ! あ、ここでの攻撃は禁止だからな!』
審判神がそういうと同時に、俺と炎の魔王は光に包まれる。
炎の魔王はこちらを見ると、口元を釣り上げ、指をクイっと曲げて挑発した。
それに、俺は鼻を鳴らして対応する。
炎の魔王が驚いた顔のまま光に飲み込まれるのと同時に、俺の視界は今日何度目か分からない暗転を遂げた。
=====
「今日は暗転だらけだな」
「!! マスター!」
「魔王!」「アイっち!」「ア、アイト様……」
俺がコアルームに戻ると、ガイドと3人が俺を見て名を叫ぶ。
「結奈は後でお仕置きな」
「げっ! いいじゃんかアイっち〜」
「……お前ら、配置が最後だからってこんなことしてていいのか?」
結奈を無視して、俺は3人に問いかける。彼らは、ダンジョンの最深部にて敵と戦うこととなっている。コアルームからはすぐだが……それだけに、ただの一体も通すことを許されないのだ。
プレッシャーなど感じていなさそうな3人に、俺は集中させようとするが……
「ふん。アイト様、勝つんでしょ? 私たちが気後れする理由がないじゃない?」
「真希……」
真希は当然のように、俺が勝つと信じているようだ。
それに、他の2人とガイドも加わる。
「アイっち、心配しすぎ! 私たちかって修行して強くなってるんだから、余裕!」
「ああ。
「マスター。指示は任せてください。マスターは敵のコアを。」
「はあ……わかった。悪かったな、疑って。でも、余裕とか言ってないで死ぬ気で戦えよ?」
「そ、それはわかってるから!」
俺は、人間側であったのにも関わらず、俺を慕ってくれる彼らに、内心称賛を述べた。
そして、感謝した。
「よし……わかった、コアルームを出るぞ。」
「え? なにを……」
「……黙ってついていきましょう。なに、きっと喝入れですよ」
雄二が問いただそうとするが、問いかけるが、それにガイドが答えた。
俺はそのまま最深部……大迷宮の出口奥に出て、配下のスケルトンを1000匹、召喚する。
「うおっ!? これってもしかして全員出したのか!?」
「そうだ。えー、ゴホン…………聞けっ! 勇敢な『我が兵』よ!!」
俺は配下たちに向けて、
「お前らは、ただのスケルトンじゃない! 訓練(過程は知らん)によって強力な連携と、武器の扱いを手に入れた!」
「アイっち、なんかいつもと違うね〜」
「ふ、ふん……かっこいいじゃないの」
「当然でしょう。我がマスターですから。」
……後ろは無視だ。
「相手はDランクや、Cランクすらいるだろう! だが、恐れることはない!!」
いつの日かと違い、Eランク相当になったスケルトンたちは腕を挙げたり、地を踏みしめて湧き上がる。体制を崩して転び砕け散るスケルトンはもうどこにもいない。まあ、相変わらず不気味ではあるのだが。
「アイっちかっこいい〜あはははは!」
「ゆ、結奈……笑うなって……くく」
「フフフ……」
無視……
「……お前らも聞け! この戦いで功績を挙げたなら、褒美をくれてやる! ……だから、全員、生き残れ!」
「「「「…………」」」」
俺の言葉に、3人と1つは無言になり……やがて顔を見合わせた。
「くく……なら、絶対生き残らないとな!」
「うん! たくさん洋服とかもらっちゃおうかなー!」
「……別に欲しい物なんて……」
「……」
そして、こちらに向かって腕を突き出す。
「「「「そっちこそ、死ぬなよ(死なないでね)(死なないでよ)(生き残ってくださいね、マスター)!!」」」」
「ふん……生意気言いやがって。」
俺は、そろそろ時間だし、転移権限でダンジョン出口まで移動する。
今回、突入するのは他でもない俺だ。
「まあ……ありがとな」
ダンジョンから出る間際、俺は皆に感謝の意を述べる。
その様子を見て、皆はどんな表情をしただろうか。光の中で見えなかったが、きっと悪い表情じゃないだろう。
(後でなに言われるかわかんねえな……)
俺は収納したスケルトンたちと共に、ダンジョン前まで転移する。
この先の人生と、仲間の命を背負って──。
=====
「お別れは済ませたか?」
俺がダンジョン前に来ると、既に
「……は? 鏡見て言ってんのか、テメェ」
「なに……ッ!?」
俺はそんな炎の魔王に対して、ニッコリと、中指を立てた。
「テメェ……ズタズタに引き裂いて、あの人間の前で殺してやる……それに、あいつらもお前の前で……」
「なにぶつぶつ言ってんだ? ほら、もう始まんだから黙れよ。」
「なにをっ……」
『さあ! ついに初ダンジョンバトルが始まるぞおお! さあ! 初めてということもあるのか、満員御礼だぁぁ!』
炎の魔王はキレやすいみたいだな。炎の魔王が何か言おうとしたその瞬間に、ちょうど審判神が実況を再開した。
『圧倒的有利なBランク、炎の魔王か! それともなにを血迷ったか、×という、ランク外の魔王、王の魔王の下克上か! 勝つのはどっちだぁあ!?』
観客が沸き上がっている。炎の魔王の手札を見にきた奴らだろう。必然的に、俺の配下はバレてしまうが……雄二たちがバレるよりは大分マシだ。その程度は皆通る道だから、よしとしよう。
『さあ、ついにバトル…………開始だああああ!!』
そして、やがて宙の砂時計の砂が落ち切り……審判神の号令とともに、戦いの火蓋が切られた。
これが、俺の……ターニングポイントだ。
俺はダンジョンに戻っていった炎の魔王を追いかけるように、ダンジョンに突入した。
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