この世界との別れ

「ふぁ~ぁ」

 目を覚ますと、もう見慣れてきた天井が視界に入った。いつもの病院だ。

「勇者様、大丈夫でしたか。」

 聞きなれた国王の声だ。

「別に、毎回の事なので。

「ところで、今回も能力を使われたのですか。」

「多分。」

 よく考えると、今回は走馬灯を見ていなかった。僕の能力は助かる方法をすぐに見つける能力、つまり、走馬灯を見ていようとも見ていなくとも変わらないということか。

「じゃあ、早速任務に向かっていただけますか。」

 あ、この流れ知ってるぞ。確かこの後起き上がろうとして激痛が走る流れだ。

「今はちょっと・・・」

「何故だ?」

「だってどうせ骨折してるんでしょ!毎回こうだから知ってるよ!」

「いや、今回は。」

「へ?」

「今回は必死にガードしたらしく、ほとんど怪我をしていないようです。前回の骨折の治りかけは残っていますが。ちなみに気絶したのはモンスターが放った腐敗臭のせいです。退院許可も降りてますよ。」

 国王のとなりにいたお馴染みの看護師が説明した。

「ということでいってくれたまえ。」

 国王が言う。


――気まずい



 この後、僕は様々な敵を倒した。僕の能力の弱点は、攻撃を防ぐわけではないので命は助かっても、怪我はしてしまうことだ。そのため、僕は戦っては骨折などをし、戦っては骨折などをしの生活を送った。労働環境はそこらのブラック企業とは比になるわけがないものだったが、僕は続けていた。「自分はヒーローだ」という小学生みたいな考えが原動力となっていたからだ(まあ、司令コマンダーというブラック企業の上司みたいな存在がいるからそれに押し付けられていたからなのかもしれないが)。

 僕は何度もモンスターと戦い、入院し、様々な経験をした。

 ここにいる時間5年、戦うこと32回、気絶すること32回、入院すること32回、骨折すること27回、キックボードが支給されること32回、そのうち放置したこと32回、カメラを投げ捨てること17回・・・

 様々なことをしているうちに、僕のなかにはとある疑問が芽生え始めていた。

 ――僕はなぜここに来たのだろうか

 僕は今まで、ここに来たのは前の世界で死んだからと思っていた。だが、そうではない気がするのだ。

 探し物が得意な能力は前の世界の自分も持っていた。つまり、使

 もしかしたら、この世界に来たことによってその能力が芽生えたのかもしれない。だが、自分はそうとも思えないのだ。なにか違う。そのよくわからないつっかかりでこの考えを手放せないでいるのだ。

 そんなことを考えていると、ひとつの考えが浮かんだ。この世界に長期間いる僕としては全く信じられないものだった。それは、というものだ。僕だってこんな考え投げ捨てたい。だが、そう考えると妙に事の辻褄が合うのだ。

 それは、というものだ。

 こんな世界だったら、僕の知らないものが一つくらいあってもいいはずなのに、それがないのだ。モンスターも僕が昔見た特撮番組に出ている敵にそっくりだし、お城の内装もなんか見たことがあるような感じだった。

 その考えでいくと、この世界は異世界のようなものではなく、ただのということになる。国王も司令もモンスターも自分の妄想ということになる。だが、それが僕には妙に信じられた。これが正しいのであれば現実世界の僕は多分病院のベッドの上で気絶しているのだろう。

 では、今僕はどうすればいいのか。選べるのは2つだ。

 もし死ねば、この説が正しいのであれば僕は現実世界で起き、正しくなかったらこの世界でただ死んだ人となる。

 逆に生きれば、説が正しいのであれば現実世界で生きられなくなるかもしれない。

 今が決断のときだ。

 僕は、



――ここで死ぬ。


――さよなら、この世界

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