第12話 反省会
どうも白金 姫子です。
人の居ない夜を見計らって、八百屋の【佐伯】を訪れた私。報酬は早く受け取りたかったけど、もう変装する気力も無かったから仕方ない。
八百屋の前に来ると、店の片付けをしていた和子さんが、私を見るなり笑顔で出迎えてくれた。
「あら♪いらっしゃい♪姫子ちゃん♪」
「こんばんは♪」
どれだけ気持ちが落ち込んでいても、人を目の前にすると愛想良く振る舞ってしまう。【推し姫】になってからというもの、そういう癖が身に付いてしまっている。
「正の奴は上に居るから♪後でジュース持っていくわね♪」
「いえお構いなく♪今日は用を済ましたら、すぐに帰りますから♪」
「あらそう?‥‥あっ、なるほど、この間も激しかったものね♪おばさんが邪魔したら悪いか♪ごゆっくり♪オホホホ♪」
ん?何やら和子さんは凄い勘違いをしているようだけど、ここで必死に否定したところで誤解は解けなさそうなので放置することにした。
二階の階段を上がり、私はスライド式の襖の扉を開けた。
そこには床に座り、毛布に包まってブツブツと何やら呪詛のようなものを呟いている正君の姿があった。
その姿を見た私は、正直な気持ちを彼に伝えた。
「気持ち悪い。」
吐き捨てるように私がこう言うと、彼は別にショックを受けた様子もなく、包まっていた毛布をベッドの方に投げた。
「ほっといて下さいよ。ショックなことがあったんです。」
不貞腐れた彼の態度が私の簡に触り、何か言ってやらないと気が済まなくなった。
「あのね、ショックといえば私でしょ!?推しの彼氏をボコボコのボコにしちゃったのよ!!もう気分悪くて、精神安定剤を一瓶飲みたい気分よ!!」
「へぇ、その割には楽しそうにボコってましたよねぇ。」
あー何だコイツ?どうやら余程痛い目に遭いたいらしい。
「アバラ二、三本イッとく♪」
本当は脊髄を引っこ抜いても良いのだけど、そのぐらいで許してあげるわ。
私の殺意の波動に気づいたのか、正君はブルブルと震え出したけど、彼は怯えながらもこんな風に言い返してきた。
「ぼ、僕だってね!!美鈴に俺が竜也をボコボコのボコにしたと勘違いされて、傷ついてるんですよ!!」
「な、なんですってぇ!!」
正君の思わぬ発言に、私は無意識に彼のシャツの胸ぐらを右手で掴んで、そのまま彼の体を持ち上げた。
「ちょ、ちょっと!?」
ジタバタと暴れて慌てふためく正君。だが私には聞かなくてはいけないことが2つあった。
「私のこと喋ってないでしょうね!?あと今日も美鈴ちゃんは可愛かったの!?」
「しゃ、喋ってないですよ!!あと可愛かったですよ!!」
「なら良し!!」
私が掴んでいた右手をパッと離すと、正君はドスンと床に尻餅を突いて落ちた。
今日も可愛かったかぁ♪やっぱり美鈴ちゃんは素晴らしいわねぇ♪
ちょっとメンタルが良くなったところで、今回の報酬を貰おうかしら。
「報酬を寄越しなさい。迅速に。」
「わ、分かりました。」
正君は机の一番上の引き出しを開け、写真を3枚取り出し、それを私に渡してきた。
そこに写っていたのは、紛うことなき天使の姿であった。
「美鈴が赤ちゃんの時の写真と、3歳の七五三の時の写真、そして幼稚園入園の時の写真です。足りないなら、まだ渡しますが。」
「いや、良いわ‥‥‥今回だけはこれだけで胸いっぱいだから。」
3枚の写真を我が子のように優しく抱きしめる私。この写真を貰えただけでも竜也君をボコボコのボコにした甲斐があったというものである。
「今からこの写真にサイン貰ってきても良いかな?」
「いや駄目でしょ。色々不味いですよ。」
人間欲深くって駄目よね♪
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