第10話 決闘

どうも決闘立会人の佐伯 正だよ。

場所は近所の公園、日時は土曜日の夜20:00に決闘することに相成り、その土曜日の19:55に俺は溜息を吐きながらも公園に着いた。

公園に着くと黒神 竜也が腕組みしながら公園の真ん中で仁王立ちしていた。さながら巌流島の佐々木小次郎といったところだろうか?まだ白…いや、【ひょっとこ仮面】は来ていないようだ。


「こ、こんばんは。」


「おう、ばんは。」


この間の一件ですっかり黒神に、苦手意識が植え付けられてしまった俺は下手に出るしかない。

クソッ、こんな不良なんか、きっと【ひょっとこ仮面】がボコボコにしてくれる筈だ。ウケケケ♪


「おい、これやるよ。」


「えっ?」


黒神が突然に筒状の物体を下手で投げてきて、なんとか俺はそれをキャッチした。

見れば、それは微糖の缶コーヒーだった。


「それは礼だ。この間は乱暴なことして、すまねぇな。俺も気が立っててよ。【ひょっとこ仮面】と戦えるようにお膳立てしてくれてありがとうよ。」


「ど、どういたしまして。」


ペコリと俺に頭を下げる黒神。な、なんだろう、めちゃくちゃ良い奴に見えてきた。もしや、これが不良が雨の日に子犬とか拾うと評価が爆発的に上がる原理だろうか?

こういうギャップに美鈴はやられてしまったと思うと、なんだか凄く負けた気がする。

貰った缶コーヒーの味もよく分からないや。


"ザッザッザッ"


俺が缶コーヒーを飲み終えた後ぐらいに、あの日と同じ赤いジャージのひょっとこの仮面を被った人が現れた。時間はピッタリ20時ジャストである。


「お待たせいたしました。」


読者の皆さんには分からないだろうけど【ひょっとこ仮面】さんは今日はボイスチェンジャーを使ってます。よく詐欺師のインタビューで聞こえる「騙される方も悪いんですよ」ボイスですぜ。


「おう、よく来たな。呼ばれた理由は分かってんだろうな?」


【ひょっとこ仮面】を見るなりドスの効いた声を出し始める黒神。やっぱり、戦闘モードになると、おっかない奴である。


「はい、そこの人から理由は聞きました。考え直しませんか?本来、私は争い事は好まないんです。」


「ふん、あれだけヤンキーぶちのめしておいて、よく言うぜ。今日は棒は使わねぇのかよ?」


黒神の言う通り、今日の【ひょっとこ仮面】は手ブラで、見る限り背中に何も入れて無さそうである。


「一対一の決闘に武器は無粋でしょう?拳で語り合いましょう。不本意ですが。」


「へん、後で言い訳すんなよ!!」


【ひょっとこ仮面】に向かって走り始めた黒神。いきなりだが決闘が始まったようである。


黒神は右拳を振りかぶって殴りかかった。


ブンッ!!【ひょっとこ仮面】はひらりと躱した ミス


黒神は更に左拳を振るう。


ブンッ!!【ひょっとこ仮面】はそれを避けて、カウンター


鋭い右の拳が黒神のボディを襲う ズガッ!! 

黒神に80のダメージ


黒神は苦痛に顔を歪ませながらも、右足で喧嘩キック


パンッ!!【ひょっとこ仮面】はそれを左手でいなして、カウンター


コークスクリューの右拳が黒神のボディを襲う。

ズバババーーーーン!!会心の一撃、効果は抜群だ

黒神に999999のダメージ。


「ぐ、ぐはっ!!」


黒神は苦痛に顔を歪めて倒れた。


テレレレン♪


【ひょっとこ仮面】は勝利した。

経験値50手に入れた。だがレベルはカンストしているので意味は無かった。



戦いは始まってみれば呆気ないものだった。

黒神の攻撃はことごとく避けられたり、いなされたりして【ひょっとこ仮面】には届かず、【ひょっとこ仮面】はボディブロー2発で黒神を倒してしまった。

黒神は白目を剥いて倒れているので、暫くは起き上がることは無いだろう。

さぁ、こうなると心配なのは【ひょっとこ仮面】の心情である。推しの好きな人をぶちのめして、どんな心境なのだろうか?

俺の考えを知ってか知らずか、【ひょっとこ仮面】は顔をこちらに向けている。仮面はおどけた顔をしているのが切なさを倍増させる。


「写真……あとで取りに行くから。」


ボイスチェンジャーを使っていない【ひょっとこ仮面】でも、ましては【推し姫】でもない、白金 姫子としての力無い声が聞こえ、俺は何だか涙が出そうだった。


「と、とっておきのをあげますよ。」


「そう……楽しみにしてるわ。」


そうして踵を返して帰って行く、【ひょっとこ仮面】の後ろ姿は何処か寂しく、哀愁がたっぷりであった。









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