7話 壁ドン
"ドンッ"
少女漫画とかでよくあるシーンに壁ドンが上げられることは、よくあるだろう。
たがしかし、男が男に壁ドンし始めたらそれはBLか、もしくは……。
「おい、面貸せよ。」
不良漫画の世界である。
ふぅ、体がガタガタ震える。俺こと佐伯 正の戦闘力は3あるかないかである、それなのに黒神 竜也と呼ばれる札付きの不良に絡まれるなんて、もう、お先真っ暗の人生ゲームオーバーかもしれない。
いきなり壁ドンでは読者も困惑するだろうから、少し時間を巻き戻そう。
白金さんの正体を知った翌日。朝に学校に登校するといつもの光景が広がっていた。
「白金さん握手してください♪」
「白金さん同じ空気吸っててごめんなさい。」
「白金さん、10連ガチャ引いてください。」
クラスメート達の【推し姫】に対する行き過ぎた行為は、最早我がクラスの名物であり、他のクラス、他の学年の生徒もやって来て、彼女と話すだけでも順番待ちという異常事態である。
なんでもこの推し活が、先生たちの間でも問題視されているようで、近々朝礼で注意喚起がされるだろうともっぱらな噂である。
「皆、ありがとう。仲良くしてくれて嬉しいわ。」
【推し姫】がニコリと笑うと、ワールドカップで日本代表がゴールを決めた時みたいにわぁあああ!!と湧き上がる教室。これなら投げキッスでもされた日にはショックで心臓麻痺を起こす人も出そうである。
昨日なら、俺はこの光景を羨望の眼差しで見れていただろうが、今は魔法が解けてしまったかのように冷静に見れている。
皆は知らないのだ。【推し姫】の正体が、推し活という名のストーキング行為をしている変態ということを。
暫く、自分の席から白金さんを眺めていた俺だったが、一瞬、殺気に満ちた目で白金さんが俺の方を睨みつけてきたので、反射的に机に突っ伏した。
あの目は「余計なことを言えば、苦しませて殺してやるからな」と言っていた。目は口ほどに物を言うというが、どうやらあの話は本当だったようだ。
鳥肌が立った手を擦りながら、俺はもう彼女と関わり合わないようにしようと心に決めた。
そうして当たり障りのない日常を過ごしていたのだが、昼休みに弁当を食べたあと、トイレをしに廊下に出た時に事が起きてしまった。
トイレに向かう俺の目の前に、美鈴の想い人である黒神 竜也が現れたのである。
コイツが学校に居ること自体珍しいし、こんな所でバッタリ出くわすのは運が悪いとしか言いようがない。
昨日の受けた傷はそのままで、眉間にシワを寄せて機嫌が悪そうに廊下の真ん中を歩いてるので、通行人はこぞって廊下の端に退避している。
もちろん、俺もそれに習って壁際に寄って竜也をやり過ごそうとした。君子危うきに近寄らずである。
だが、ここで不思議なことが起こった。
竜也が俺のところに差し掛かった瞬間、くるりと俺の方に体を向けたのである。
そうしてツカツカと俺の方に近寄り、あとは言うまでもなく…。
"ドンッ"
壁ドンである。ここでようやく冒頭の話に戻ってこれた。読者の皆様お疲れ様。そして俺はここから修羅場である。
付いて来いと言われて、恐怖で震えながら向かった先は体育館裏。草木がボーボーと生えており、空気ジメジメしていて、何故か用途不明の丸太の杭があるシュールな場所である。
ここで黒神と俺は向かい合って立っている。今から決闘が始まるのかと期待している人が居るかもしれないが、もし始まったとしても俺が一方的に殴られるだけで面白くも無いだろう。
「単刀直入に言うぜ。」
腕組みしながら黒神はそう言い放つ。それに対して俺は「は、はいぃ」と情けない声を上げた。
黒神は続けてこんなことを言った。
「お前、あのひょっとこ野郎の仲間なんだろ?アイツと俺を会わせろ。」
……無理を言わないでくれ。一応説明するが、ひょっとこ野郎=白金 姫子さんのことであり、学年のアイドルと札付きの不良を会わせるなんて、そんなマッチングを俺に求めないでくれ。
「い、いやぁ、全然知らないです。た、たたまたま居合わせただけなんで…。」
半分は嘘ではない。本当にたまたま居合わせただけなのだから、まぁ、彼女の実情は知っているから半分は嘘なのだけど。
「おい、半分嘘って顔してるぜ。お前ひょっとこ野郎のことは知ってやがるな。」
なぜバレる!?ピンポイントになぜバレる!?もうこの人色んな意味で怖いわ!!
ここで俺はなけなしの勇気を振り絞り、蚊の鳴くような声でこう質問した。
「か、仮にぃ…ぼ、僕が知り合いだとしてぇ…ひょっとこ仮面さんに何の用事何ですかぁ?」
俺のこの質問に黒神は拳を握りしめ、ワナワナと震えながらこう答えた。
「決まってんだろ?…俺の喧嘩を邪魔したあの野郎とタイマンすんだよ。」
そんなの決まってないよぉ。タイマン好きだなぁ不良って、どこでそんなこと教わってくるだよ?
ここで俺は最後の勇気を振り絞り、再度こんな質問をした。
「た、助けられたのに、どうして戦うんですか?」
「あぁん!!」
「ひぃい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
もう勘弁してくれ。誰か助けてぇ。
「俺は一人でも勝てたんだ!!それなのにあの野郎横槍してきやがって!!正義のヒーロー気取りが気に入らねぇ!!ぶっ飛ばさねぇと俺の気が済まねぇんだよ!!」
もう不良って面倒だ。助けられてもムカつくとか、どういう精神構造してんだよ?こんな男の何処を美鈴は惚れたのだろう??
世の中の分からないことだらけである。
「そんで!!ひょっとこ野郎と俺を会わせるのか!?会わせねぇつもりなのか!?返答によっては…。」
テンプレートのようにバキボキと両手を鳴らし始める黒神。目は口ほどに物を言うとさっき言ったが、これだけ分かりやすいボディランゲージあるわけだ。
これに対して俺の答えは一つである。
「会わせます!!すぐに会わせます!!もうボコボコにしてやってください!!」
……俺は自分で思っている以上にクズ野郎だった。
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