〈6〉「孤独と向き合うモノローグ」
人間の母親の
魚から両生類になり、最後にはヒトになる…それは奇跡と呼ぶにふさわしい。
俺のような自動人形(オートマタ)はいざ知らず、普通の人類はこのプロセスを経て世界に産み落とされる。神とかいう造物主が居るなら、なかなか大したことをしたもんだと思う。
神は自らの姿に似せヒトを創ったってのは一神教でよく聞かれる
しかし、俺はたまに思うのだ。神が完璧な者ならば、何故俺達はこうも出来が悪いのかと。要らない知恵と欲望の塊が俺達だ。遺伝子の自己複製に付き合わされてるって考えるほうがまだ納得いく。
キリスト教の周辺部から反論を出すなら異端派のグノーシス主義がある。その教えを雑に要約すると―『本来の神から偽物の神が産まれ、偽物の神が本来の神に似せたようとしたのが我々人類である』プラトンのイデア論を
偽物の神の似姿たる俺達は不完全で傲慢だ。そして神の真似事をするのに熱心だった。 だから―偽物の神の名のひとつ―デミウルゴスが示すように職人になる。創造する。神を気取るのは楽しいらしい。
俺は
大地のような母を気取る
言い訳をつらつら考えないとヒトは…いや俺は生きていけない。
俺は―何の為に産まれ、何を為して生き、何を残して死んでいくのか?
暇人の思考そのもので嫌な笑いがこみ上げてくる。でもお前ら人類だって、寄り集まって生きるようになってからずっとこの事を考えてきたではないか?神という概念と宗教というイデオロギーを産んだお前らに俺を
まったく。アウトサイダー気取りで嫌になる。
だが。言語という思考システム、人類という水槽、
◆
この頃孤独が薄れていくのを感じる。あの一生さんと出会ったからだ、遊ぶようになったからだ。
これまでのわたしは独りぼっちだった。周りに人はいたけれど、誰もわたしの事を気にしてなんていなかった。人だかりの中での孤独は酷く身に沁みる。でも寂しくはなかったんだ、そういう風に産まれてきたんだって思ったら納得出来たし、犬や猫や…想像の友達が居たから。
最近自分の隣に温かいものを感じるようになってわたしは嬉しかった。
久しぶりの人の体温。それは冷え切ったわたしの心を温めるには十分すぎるもので。急に温まった指先みたいにかじかんでしまった。
そう。
一生さんが温めてくれれば温めてくれるほど、わたしは
わたしだって寂しくない訳じゃないんだよ、お母さんに相手にしてもらえなくて。温かいお母さんの膝の上が懐かしい。たまにはぎゅっとしてもらいたい。
でも。
わたしは―お姉ちゃんの…代わりや補うものでしかなかったんだ。それには嫌でも気づいてる。
可愛い女の子だったお姉ちゃん。お母さんにそっくりだったお姉ちゃん。
なんで?どうして、姉妹の中に順序があるんだろう?
わたしは―要らない子なのかな?分からない。大人は子どもは無条件で愛されるべきだって言うけれど、子どもだって『人』なんだ。愛されるにはそれなりに色々しなくちゃいけない。でも、わたしがお母さんに出来ることはお姉ちゃんに体の一部を分けることだけだった…そう思うと泣きそうになる。
愛されない子ども。それがわたし…
「そう、あなたは愛されてないの」と声が聞こえる。
「言われなくても…分かってる」とわたしは不意に創ってしまった友達に言い返す。
「分かってるふりをしてるだけなんだよ。分かってるからわたし賢い、って思いたいだけ」と言う友達。いつもより辛辣で、私の心をぐちゃぐちゃにする。
「そんなのが賢い、なら私、バカで良いよ、寂しいよ…」わたしは吐き出す。気持ちを。
「そういう風に思うなら―こころを開いて…向き合わなきゃ」と友達は言う。
「向き合う?」
「そう。気持ちと向き合って、人と向き合って…」
「怖い」
「そりゃ怖い…よ…でも…」急にノイズが走り出す友達。待って、まだ消えないで!
友達が蝋燭の火を吹き消した時のように消えたその時。インターフォンが鳴った。慌ててコンソールに行き応答ボタンを押せば―
「撫子ちゃん?迎えに来た…いくぞ?」一生さんの声。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます