〈2〉創る少女と自動人形の出会い

 わたしは変な子らしい。別に自分ではなんともない10歳児のつもりだが、周りがそれを認めてくれないのだ。

「お前のかーちゃん、男をかまって金もらってんだろ」つまらない男児だんじの罵り。そう、私の母はそういう商売で私を養ってる。わたしとしてはそれに文句を言う権利はない―つもり。

「あたしはね、綺麗に産まれたの。それを使って商売して何が悪いの?」お母さんの口癖。しつこいようだがわたしは文句を言ってない。言ってくるのは周りなの。


 今日もひとり悲しく公園に行く。一緒に遊んでくれる友達が居ないのだ。お友達ならいっぱい居るけど、本物のお友達は居ない。

 寂しいか?いいや。別に独りで居るのは慣れっこ。お母さんはいつも肝心な時に居ないいし、離婚して別居中のお父さんはわたしを嫌ってるんじゃないかな。お母さんに似てきて可愛げがないんだってさ。


「平和だなあ…腹が減っている事を除けば」男の人の声が聞こえる。

 そちらに目を向けると、ボサボサの短髪のお兄さんとおじさんの間の男の人。妙に汚い感じがする…あれだ。近所の野良猫に雰囲気が似ているんだ。

「…どうしたの?」だからなのかほっとけない。余計なお世話かも知れないけど。

「いや。そのセリフは俺のだ」とおにいおじさんは言う。いやいや、わたしよりあなたの方がでどうにかしてるんだよ。

「わたし?遊びにきてるんだよ」落ち着かないから髪をいじりながらこたえる。嘘じゃない。今日も人を眺めて寂しさを埋めようとしていた。

「…変な大人に構うなって習わんかった?」うん。習ったけどさ。

「ガッコーで習ったよ…ま、この街なんて変な大人しか居ないけど」そう、この繁華街の近所に住むわたしのご近所さんは大抵変な人だ。たまに警察に連れて行かれたりする。

「言えてるな」とおにいおじさんが応えた瞬間、ぐううううという音がお腹の方から聞こえてきた。わたしのじゃない。おにいおじさんのだ。お腹、めちゃ減ってるみたい。

「…お腹減ってるの?」とくしかないじゃん。なんか完全に野良猫に見えてきたな…

「ついでに金もないね」とおにいおじさんは聞いても無いことを言う。想像できてた。今わたしのお財布には100円がある。後でお菓子買おうと思ってた。

「…流石にそれはない」大人としてそれはダメらしい。いや、ダメとか言ってる場合なのかな。しょうがないからポケットに突っ込みっぱなしの飴をあげておこう。

「じゃあ、飴玉あげるよ、ちょうど持ってたんだよね」わたしが飴を渡すと素直に受け取ってくれた。

「これくらいなら―いいか。ありがとよ」


                    ◆



 わたしは想像でお友達を。難しい言葉でいうとイマジナリーフレンド、もしくはタルパ。わたしを診たお医者さんが言っていた。


「あのね?今日変な人に会ったんだよ」とわたしは『創造そうぞう』したお友達に話しかける。

「どんな人なの?」とその娘が訊いてくれる。綺麗な髪の女の子。服は甘めな感じで少しこまっしゃくれてる。

「なんか猫のジローみたいな感じ」猫のジローはわたしの家の近所を縄張りにしてる野良の子。サバトラの男の子だ。猫缶が好物のキュートなやつ。

「ジロー?あのオス猫?いつもお腹すかしてるよね」と彼女は応える。今日の娘も上手くいったな。

「その男の人もお腹空かしてたから飴あげたよ」とわたしは言う。

「それ、危ないからいけないよ」と心配してくれる友達。

「でもさ。その男の人、放っといたら―消えてなくなりそうな、そんな感じがしたの」そう、だからほっとけなかった。曖昧あいまいはかなくて。わたしのお友達たちにそっくりだった。

「警察に連れて行かれて?」と茶化す感じで彼女は言う。

「それもあるけど…もっと…ほんものな感じ。あなたに似てるよ」

「わたしと似てる?じゃあ、その人も―『創られた』のかな?」この娘、ダメだ…気がついちゃった。

「かも知れない。分かんないけど」眼の前のお友達の像がガサつき揺らめく。

「そっか…」応え方が曖昧になっていくお友達。わたしがやる気をなくしてしまったから―彼女は消える。短い時間だったな。

「明日もあそこにいたりして」返事があるかな?

「…」やっぱり。かすみのような、舞い上がった砂のような、そんなモヤモヤになってお友達は消えた。


『先日―遺伝子組み換え体の人類が作出さくしゅつされていた事が判明しました…―大学付属病院の再生医療プロジェクトK−023での事です…この件に関して政府は強い非難を―』けっぱのTVの音がうるさい。


 今日もお母さんは夕方に仕事に出ていった。だから家にはわたしとプードルのこうくんだけ。こうなってくると友達を創らずには居られない。

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