第8話Happiness Moon

なんてことはない生活である。


時給900円の弁当屋で週4日働く。


2階建の1階の家賃4万弱のアパートで暮らす。


仕事が休みの日昼まで爆睡してると、ドアを叩く音がする。


最初気付かなかったが、連続4回叩くので目が覚めた。


ドアを開けると隣の杉野さんだった。


食材が余ったので届けてくれた。野菜中心でありがたい。


頭の毛がボサボサで僕が寝起きと分かったらしい。


気を使ってくれたのかすぐに帰った。


杉野さんは101号室に住んでいて、年齢は60代前半という所か……。


引っ越して来た頃色々と周りの事を教えてくれた。


お互いの部屋で酒を酌み交わすくらい親しくなった。


杉野さんは酒が深くなると涙ぐむ時がある。


「人生なんて“まぼろし”だ」


そう言って涙をこぼす。


自分も34年間生きてきて人生がどうだこうだ考える機会はあまりないなあと天井を見上げる。


杉野さんは将棋が得意。


これまで30回くらい対戦してるが、一度も勝てない。


今日も杉野さんを招いて残り物の弁当をご馳走する。


ビールを飲み交わしながらまた対局する。


今回粘って108手で負けた。


「腕を上げてきたね」


杉野さんは多分初段くらいの実力がある。


色恋の話になると杉野さんは必ず「男ならやる時はやれ」


と発破をかけてくれる。


明日仕事が休みなので徹夜で将棋出来るなと月を見上げる。


大変な世の中だが一抹の幸せを感じる。


2023(R5)1/24(火)








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