ショートストーリー

@mrxyz1984koji

第1話僕はそうする

譲くんは図書館でボランティアをしていました。


譲くんの目当ては20代後半の日向時子さんです。


彼女は銀縁眼鏡をかけて目立たないですが、好感が持てます。


彼女が独身なのか、結婚してるのか、譲くんには聞く勇気がありません。


地下の文庫コーナーで、整理していたら日向さんが話しかけてきました。


「譲くんは学生なの?」


日向さんの笑顔が眩しすぎて譲くんは一瞬固まってしまいました。


「高校を中退して福祉関係のバイトをしています」


日向さんはまた微笑んで「そう、てっきり大学生かと思ってたけど働いてるのね」



夕方になり図書館を後にして、譲くんは日向さんに言葉をかけられた余韻に浸ってました。


譲くんは歌うのが好きで、ビートルズの「オブラディ・オブラダ」を口ずさみます。


目を閉じて日向さんと手をつなぎながら歩いてる所を想像します。


ジョンは「譲、彼女は君に興味があるぞ」と言い


ポールは「彼女のために歌ってあげたらどうだ?」と言い


ジョージは「構えることないよ」と言い


リンゴは「気楽にいけ」と言います。



図書館のボランティアを続けていましたが、日向さんを見かけなくなりました。


譲くんは思い切って司書の人に尋ねてみました。


日向さんは結婚して主婦業に専念してるそうです。



その日の夕方「イエスタデイ」を歌いながら譲くんは泣いていました。


涙は溢れ公園のベンチで座り込んでしまいました。


譲くんは「また一人か」と溜め息をつき、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴに問いかけました。


4人とも何も言いません。


夕焼けの赤が目に入ってきました。


日向さんの色んな表情が浮かんでは消えていきます。


譲くんは長く曲がりくねった道をまた歩き始めました。


2015(H27)10/30(金)






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