第16話

 高野刑事が「何か怪しいですね。今の夫より前の夫の方への愛情が深い感じがしました」と言う。

「そうかもしれんが、女は分からんからなぁ。高野、保険の契約関係調べろよ」桜井も引っ掛かりはあったが確心するまでには至っていなかった。高野刑事は頷いて電話帳を片手に保険会社に電話を掛け捲り、そして何軒目かで該当を見つけたようで早速出かけて行った。

 後日、室内の足跡の上に小さめの足跡が認められ警察は賊が二人いたのかとも考えたが、その跡が娘の真帆のスリッパの跡で朝騒ぎで二階から降りてきた後、室内を走り回ったと本人も水野芽衣も話したので、事件とは関係なしと桜井も考えたのだった。ただ、室内の途中から足跡の付き方が変わったことについて、誰も桜井を納得させる説明は出来ていなかった。

 高野刑事は、「室内に入ったのは一人だと確認出来ています。玄関を出たのも一人です。それを踏まえると室内で人が変わることは考えられないし、途中から二人になることは有り得ません。だから、足跡は気にしなくても良いのではないでしょうか?」と言う。

「確かに、そうだが・・・頭で分かっていても刑事の感が違うって言うんだよなぁ」

桜井は自身の気持ちがもんもんとしてすっきりしない。

 また、高野刑事の調べで、保険の契約は本人が会社で同居の10年も前にしたもので、一緒に暮らすと会社に宣言した頃に受取人の変更をやはり会社で手続きしていた。また、聞き取りした担当の外交員は「契約時も受取人の変更時も大西さんは普段の大西さんでしたよ」と証言した。

背後で妻がどう関わったかは分からないが、本人が手続きしている以上正当な手続きと言うしかなかった。

 

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