穢れの代償
きよのしひろ
第1話
細く開けた目に飛び込んできたのは、真っ白な天井と細長く薄汚れた蛍光灯でした。
どこなの?
起き上がろうとすると、後頭部にずきんと痛みが走って思わず呻いて頭を枕に沈めました。
「大西さん、気付きましたか?」
声のする方を見ると看護師さんがにこやかに私を見ているので「あの~ここは?」と訊きました。
「大都城市立病院ですよ。ここへ来て3日目になりますよ」優しそうな話し方だけど、言ってる意味が良く理解できなくて「3日もどうして病院に?」と尋ねました。頭の中のどこを探しても記憶が見つからないの、どっかに飛んで行ったみたいです。
「ちょっと待ってて下さいね。先生から話して貰いますから」
看護師さんが戻って行ってから数分して白衣を着た年配の男性が入ってきました。きっと先生なんだろうなと思いました。ただ、その後ろにスーツ姿のあまり好まない感じの中年男性と若い男性が立っていて、私をじっと見ているのでちょっと不気味な感じでした。
「大西さん、頭は痛いですか?」白衣の男性に訊かれ「じっとしていたら大丈夫なんですが起き上がろうとしたらずきんとしました」そう答えると、「話をしても大丈夫ですか?」と訊かれ「話は大丈夫ですが、自分がどうしてここにいるのかわかりません」と答えました。
「そう・・・」白衣の男性は少し考えてから「こちらに居るのは刑事さんで大西さんに色々話を訊きたいという事なんですが、いいですか?」と二人の男性を指し示して尋ねるのです。
私は不気味な感じの正体を知り強張っていた身体がほぐれる感じがしました。そして少し考えて、自分の分からないことを訊いたら教えて貰えるかもしれないと思い「はい」と返事をしました。
桜井岳と名乗った警部さんが「事件の事を覚えていますか?」と訊くので、私は「事件って何ですか?」と訊き返しました。
すると高野優斗と名乗った若い刑事さんが「じゃぁ、僕から事件のあらましを説明しますね」そう言って3日前の事だという話を始めました。
「3日前、朝10時15分、大西さん宅の近所の水野芽衣さんという女性から110番通報がありました。大西さんの奥さんがリビングで頭から血を流して倒れていると。それで警察と救急隊が行くとあなたが倒れていて担架で救急車に乗せたんです。警官が室内の状況を確認していると、奥の部屋で首から血を流している男性を発見したんです」私ははっと気が付いて「それ大西です!」と叫びました。記憶が蘇ってきたのです。「そうだ、私、コンビニからカップ麺を三つ買ってリビングのテーブルに置いて、大西に買って来たわよって言いながら部屋に向かおうとしたら、いきなり誰かに突き飛ばされて・・・」そこまで思い出しましたが、その後は何も頭の中に浮かんでこなかったので「で、・・・後は思い出せないです」と言うしかなかったのです。
高野刑事は私の話をメモしてたみたい。
それから高野刑事が「ご主人は首を刃物で切られて出血が多く、奥さんと一緒にここへ運んできたのですが死亡が確認されました。失血死でした。残念です。お悔やみ申し上げます」と告げたのです。
突然の大西の死亡宣告にあまりのショックで、返す言葉も浮かばず、身体が硬直し口を押えたまま呼吸することすら忘れていました。そして、いつの間にか涙が枕を濡らしていたのです。
「大丈夫ですか?奥さん!」何度か呼びかけられ、肩を揺すられて正気を取り戻しました。
「どうして?何があったんですか?」そう訊くのが精一杯でした。
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