第10話 楽しい残業へ
「じゃあまた作ってみようか」
「……そうだな、目の前で作ってもらわないと到底信じられない」
「わ、わかりました」
ということで、また緑のポーションを作ることに。
今度は一から作ったので、十秒ほどで終わった。
「こちらです」
「……本当に早すぎるな」
「そうでしょ? 僕よりもかなり早いよ」
エルスさんとオスカルさんにそんな感想を言われた。
ポーションって一個作るのに一時間もかかるものなのかしら?
「この緑のポーションを売り出したら、かなりの利益になると思わない?」
「ああ、それはそうだろう。効果は自分の身でも確かめたが、かなりのものだ。傷を治すポーションは傭兵などに主に売れていたが、疲れを癒すポーションは誰にでも売れるだろう」
確かに傷を治すポーションは街の外などで魔物を倒す傭兵の方々が、よく使っていた。
だけど街中で普通に暮らす人々は怪我をする機会が少ないので、ほとんど売れていなかっただろう。
だから青のポーションは傭兵がよく使う店で売られていた。
これがいっぱい作れて売り出せるなら嬉しいけれど……。
「それで、大量生産は出来そう?」
「無理だな、おそらく一日に百個も作れない。製造部の奴らがこれを作ろうとしたら、一個作るのに一時間以上はかかるだろう」
うっ、そうなのね……。
製造部の方々はいっぱいるようだけど、緑のポーション一つだけを作るわけにもいかないのでしょう。
これが売り物になるなら、早速カリスト様に引き抜いていただいたお礼が出来ると思ったけど、そう簡単な話じゃ……。
「だが百個程度で十分だと思うがな」
「うん、僕もそう思う」
「えっ?」
十分? 百個くらいで?
「効果が凄まじいから、貴族専用で価格を高めに設定して売り出すのもありだろう。あとは研究しないといけないが、効果を薄めればもっと大量生産出来るようになるかもしれない」
「なるほどね、そこは開発部に任せてよ」
「ああ、アマンダ嬢も頼んでいいか。君が作ったものだから、配分などをオスカルと研究してくれ」
「は、はい! もちろんです!」
どうやらこれは売り出す方向で決まったようだ。
それは本当に嬉しいけど……一つ、提案したいことがある。
「あの、この緑のポーションの生産、私が手伝うのは可能でしょうか?」
「ん? アマンダ嬢が?」
製造部部長のエルスさんが首を傾げる。
「確かに君の速度で生産し続けてもらえれば、かなり大量に生産出来るだろうが……難しいだろう? さっきの錬金術はかなり魔力を使うはずだ」
確かに私の作り方は、魔力をとても使う。
普通の人はもう少し魔力を抑えた錬金術をすることが多いが……。
「私は人よりも魔力がとても多いようで、問題ありません。今の緑のポーションを百個作るのであれば、三十分程度で終わると思います」
「……はっ?」
「アマンダちゃん、それは本当?」
「は、はい」
エルスさんだけじゃなくて、オスカルさんにも驚かれた。
私の魔力量は学生の頃から人より多かったので、本当は製造部に向いていると思う。
だけど私は開発や研究が好きなので、そちらを優先的にしたい。
でも錬金術で物を作るのも好きなので、製造するのもやりたいわね。
「はぁ、アマンダ嬢、君はいろいろと規格外のようだ。だが三十分で百個作れるならありがたい。素材はこちらですべて用意するので、やってもらいたいな」
「はい、もちろんです」
「だが効果を薄めて他の錬金術師でも作れるように開発も進めてくれるとありがたい」
「わかりました」
「うん、僕と一緒に頑張ろうねー、共同開発だ」
きょ、共同開発……!
なんて素晴らしい響きなの!
ヌール商会では他の従業員の方と合うこともほとんどなく、モレノさんも私に仕事を支持するか罵るかだったから、共同開発する相手なんていなかった。
ファルロ商会の開発部部長のオスカルさんといきなり共同開発出来るなんて、本当に嬉しいわ!
「おいオスカル、わかっていると思うが、お前が一緒に効果を薄めるものを開発したとしても、この緑のポーションの特許はアマンダ嬢のものだ。功績を奪うなよ」
「そんなことするわけないだろー」
エルスさんの注意に、オスカルさんが口をとがらせて文句を言った。
というか、私の特許? 功績?
「あの、確かに緑のポーションを開発したのは私かもしれませんが、これを商品化できると言ってくださったのはオスカルさんやエルスさん……それにカリスト様なので、私一人の功績にするのはどうかと……」
最初にカリスト様から緑のポーションを認めていただき、それをオスカルさんに話さなかったら商品化することはなかっただろう。
だから私一人の功績にするのは気が引けたのだが……。
「いや、それはありえないな」
「うん、僕もこの功績はいらないなぁ。だって僕が考えたわけじゃないし」
「ですがこの後は共同開発で効果を薄めたやつを作るのでは?」
「それでも元はアマンダちゃんが作ったものだし、僕は一緒に共同開発するだけで楽しいからね」
それは私も楽しくて嬉しいんだけど、それとこれとは話が別な気がするけど。
「それに僕はかなり功績を持っているから、これ一つくらいはいらないかな?」
「な、なるほど……」
ニコッと笑いながら、なかなかカッコいいことを言ったオスカルさん。
「アマンダ嬢、この功績はもらっておくんだ。君の話はカリスト様から聞いているが、今まで功績を奪われ続けてきたのだろう?」
「一応そうですね。あまり自覚がなく、興味がなかったですが……」
「そうか、だが錬金術師として魔道具の特許などの功績を持っていると、いろいろと融通が利くこともある」
「そうだね、素材が安く手に入ったり、珍しい素材を商店の人に取ってもらうことも出来るよ」
「功績をいっぱい作ります、頑張ります」
「……意外と現金だな、アマンダ嬢は」
功績はどうでもいいけど、素材が手に入りやすくなるのは素晴らしいことね。
その後、私とオスカルさんは開発部の階へと戻り、そのまま一緒に緑のポーションの開発をした。
いきなり初日から開発部の部長のオスカルさんと開発出来るなんて、本当に最高だわ。
何回も配分を試して、効果を試すために開発部に所属している人を呼んで飲んでもらって……ということを繰り返していた。
「あー、もう終わりかぁ」
「えっ、もうですか?」
オスカルさんに言われて窓を見ると、景色がかなり暗くなっていた。
こんなに仕事で時間があっという間に過ぎるのは久しぶりだ。
「もう終業時間だね」
「そう、ですか……」
おそらく夕食前の時間、ヌール商会ならこの時間に帰宅出来るのは稀だった。
この時間に帰られたら嬉しかったけど、今は全く逆の気持ちね。
もっとやっていたい、開発をしたい、仕事をしていたい。
自分が好きで楽しい仕事なら、こんな気持ちになるのね。
「どうする、アマンダちゃん?」
「えっ、どうするとは?」
「残業手続きを出せば、あと三、四時間くらいは出来るけど?」
オスカルさんが悪戯っぽく笑ってそう言った。
「っ、やります!」
私は思わず大きな声で返事をしてしまった。
「よし! 一階のところで手続してきて、五分で終わると思うから」
「はい!」
「僕の名前を出してね。それと残業手当はきっちり出るから安心して」
「わかりました!」
まさか転職して早速、残業をするとは思わなかった。
だけど前のヌール商会と違うのは、これほど嬉しくて楽しい残業はないということだ。
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