第40話【何故】配慮なんて知るか!!全部実況する!!(ヤケクソ)【こうなった?!】16

スレ民が指定した喫茶店というのは、先日ルル達と来た店であった。

学園の近くということもあって、ユートは時折この店に来ていた。

ユート達が店に入らずに、コートをくれるという書き込みをしたスレ民を待っていると、店の扉が開いた。

現れたのは、ここの副店長をしている、紺青の髪と紫色の瞳を持つ男性だ。

着けているエプロンの左胸元には、【ウィリアム】と書かれた名札があった。


「君たち、ちょっとおいで」


ニコニコと男性はユートとチェスタを店に招き入れた。

店内に他に客は居ない。


「はい、これ」


言いつつ、紙袋を手渡された。

中に入っていたのは、真っ黒なコート。

貼り付けられた画像で見たままの、吸血鬼が好んで身につけている、あのコートだ。


「副店長、スレ民だったんすか??」


ユートは副店長に訊ねる。

しかし、副店長はニコニコ笑って首を横に振った。


「ん~、【民】が付くほど入り浸ってはいないかなぁ。

だから違うよ。僕じゃない」


そう言いつつ、副店長はユートを見てこんなことを言った。


「それにしても、君はいい子だね」


「?」


ユートは言葉の意味をはかりかねて、疑問符を浮かべる。

それはチェスタも同じだった。

副店長は、その意味を説明することは無かった。

代わりに、こんな事を口にした。


「これは、僕のパートナーから君に渡してくれって頼まれたんだ」


どうやら、この人の知人がスレ民らしい。

その人に頼まれたということのようだ。


「それじゃ、たしかに渡したから」


そう言ったかと思うと、副店長はユートの顔をジィっと見つめる。

やがて、


「こっちの方が良くない??」


カウンターの下から、パーティーグッズの馬の被り物を出して来た。


「鳩と鷲もあるよ」


「…………」


不覚にも、こっちの方がネタになるな、とユートは思ってしまった。


「良かったらあげるよ。

こんなにあっても仕方ないし」


なんでそんなにストックしてあるのか、謎だ。

しかし、ユートがわざわざそれを口にすることはなかった。

これも何かの縁と考えて、ありがたく貰う事にした。

パーティーグッズのマスクを適当な紙袋に入れてもらい、受け取る。


「それじゃ、騒がしくなってきたみたいだし」


言いつつ、副店長は道路に面した席を見た。

そこには大きな窓がはめ込まれていて、外の様子がよく見えた。

なにかから逃げるように、学園側とは逆方向に走っていくもの達が見えた。


「頑張ってね。

僕はパートナーと違ってROM専だけど、けっこう君の実況は楽しみにしてるから」


なんて、副店長は口にした。

その顔は、やはりニコニコしていた。


■■■


162:名無しの冒険者

なんかやばくね??

つ【王立魔法学園の校舎が物理的に大炎上してる動画】


163:名無しの冒険者

ヤバいよ


164:名無しの冒険者

大炎上してんじゃん


165:名無しの冒険者

魔眼保持者たち、間に合わんかったのか


166:魔眼保持者

そんじゃ、魔眼保持者、いっきまーす!

(๑•̀ㅂ•́)و✧


■■■


黒マント姿のミイラ男。

どこからどうみても、The怪人な出で立ちである。

その姿のまま、ユートはまだ燃えていない校舎の屋根へと転移する。

チェスタは、喫茶店に残してきた。

彼女は魔族と戦闘になった時、足でまといになるからだ。

戦えないのである。

今頃は、コーヒーを飲んでいるだろう。

大炎上の原因は、次々降り注ぐ火炎球だ。

学園上空に魔法陣が出現しており、火の玉の雨を降らせているのである。


「とりま、雨でも降らそうかね」


ユートは、魔法陣を展開する。


「乞うは雷鳴、求めるは瑞雲、来たれり驟雨」


印を組み、呪文を唱える。

古くからある、雨乞いの魔法だ。

雨雲が発生する。

場所は、火炎球の魔法を生み出している魔法陣よりも遥か上空である。

ユートはそれを確認すると、


「天からの恵みよ、降りしきれ」


魔法を発動させた。


「【神聖雨ブレスト】!!」


■■■



175:名無しの冒険者

わお


176:名無しの冒険者

学園の上空にだけ雨雲出てる


177:名無しの冒険者

すっげぇ、局所的な雨じゃん


178:名無しの冒険者

ゲリラ豪雨


179:魔眼保持者

由緒ある雨乞い魔法なのに

ゲリラ豪雨言うなし

(´;ω;`)


180:名無しの冒険者

あ、【神聖雨ブレスト】使ったんか


181:名無しの冒険者

また古い魔法もってきたな

現代じゃ誰も使わないだろ


182:名無しの冒険者

教科書で見たことあるかも


183:名無しの冒険者

難しい魔法なん?


184:名無しの冒険者

いや、難しいっていうか


185:名無しの冒険者

あー、ちょっと言い難いな


186:名無しの冒険者

なにが??


187:名無しの冒険者

これさ、神の花嫁に選ばれた処女

つまりは、巫女さんしか使えないとされてる魔法でな


188:名無しの冒険者

女性限定ってことか??


189:魔眼保持者

まぁ、そう言うこと

基本、男は使えないってことで

現代のジェンダー論諸々で使用禁止になった魔法

男女平等じゃないってことでな

まぁ、別の魔法が開発されて、今じゃ、そっちが主流だし


190:名無しの冒険者

めんどいな


191:名無しの冒険者

え、でも、魔眼保持者って男の子だよね??

なんで使えるの??


192:名無しの冒険者

>>191

解析して術式アレンジしたとかだろ


193:名無しの冒険者

あ、なるほど


194:魔眼保持者

まぁ、この魔法使った理由のひとつが

ほかの火系の魔法を消せるってのがあるんだ

大炎上させてた術式そのものをこれで消したってわけ

火だるまになってるやつもいるから

ちょいと、本気出すかな


■■■


ユートは、書き込みを行うと同時に、魔眼を使って学園全体を見渡した。

あちこちに火傷を負ったものたちがいた。

中にはすでに絶命している者もいる。

雨はまだ降り続いていたが、ユートはさっさと次の魔法を展開、発動させた。

先程、病院でも使った【復活せよレスレクティオ】である。

建物に関しては、学園側が金出して直すだろうから無視した。

一気に死者と怪我人が元気になる。


雨が止む。

そして、雲が晴れていく。

ユートは更に魔眼を使う。

この光景を作り上げた、魔族を捜そうとする。

しかし、わざわざそんな事をする必要はなかった。

ユートの頭上に影が差した。


河原で過去視をした際に見た、魔族がそこに居た。

翼をつかい、器用に浮いている。


「なるほど、お前か」


魔族がユートに向かって、言葉を投げる。

ユートは、片手に携帯を持ちそのまま画像を撮影する。

そして、掲示板へ貼り付けた。


■■■


218:魔眼保持者

エンカウントなう(●´ω`●)

つ【魔族を写した画像】


219:考察厨兼迷探偵

……え


220:名無しの冒険者

ヒェッΣ(゜ロ゜」)」


221:名無しの冒険者

おいおいおい

((((;゜Д゜))))


222:名無しの冒険者

うっそやろ

((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


223:名無しの冒険者

なんだ、この反応??


224:名無しの冒険者

さあ?


225:底辺冒険者

嘘でござろう!?


226:名無しの冒険者

底辺冒険者まで

どうした?


227:名無しの冒険者

何、有名な魔族なん??


228:名無しの冒険者

ちょっと待て、なんで知らないやつがいるんだよ?!


229:名無しの冒険者

コイツ、旧魔王軍四天王のひとり!!

そんで、魔王の右腕とされてた超超超大物魔族!!

ガーラ・エドアルド!!


230:名無しの冒険者

σ( ̄、 ̄

つまり、無茶苦茶強いひとって事??


231:魔眼保持者

だれ??


232:名無しの冒険者

>>231

だから!!

超超超大物魔族!!

めちゃくちゃ強いの!!


233:魔眼保持者

強いっつーか

すばしっこいかな

暗黒魔法使っても、中々当たんねぇ


234:名無しの冒険者

うわぁ

王立魔法学園の空で、なんか花火みたいなのが破裂してるなと思ったら

お前かよ、魔眼保持者


235:魔眼保持者

色々魔法使ってるからなぁ

つーても、爆撃系は被害者出るから威力抑えてるけど

とりま、実況しながらだとちょっとムズい

あとでまた書き込みくるわ


236:名無しの冒険者

うわぁ


237:名無しの冒険者

生きて書き込み来る前提なのすげぇな


238:底辺冒険者

(;゜∀゜)イヤイヤイヤイヤ...

ちょっと加勢に行ってくるでござる

いくら魔眼保持者氏でも、こいつを相手するのはやばいでござる


239:名無しの冒険者

そんなにヤバいの??


240:考察厨兼迷探偵

どうなんだろうな?


241:名無しの冒険者

考察厨兼迷探偵は知らんの?


242:考察厨兼迷探偵

知ってる

自分でも知ってるくらい、ヤベェやつだ

さまざまな種族を殺しまくって、あちこちの人間の国で指名手配された

その後、魔族領に行って、魔王軍で四天王になったんだよ


243:名無しの冒険者

マジか


244:特定班

まじかぁ

めっちゃ大物出てきたのか

つーか、処刑されたって聞いてたのに

替え玉だったか


245:名無しの冒険者

あぁ、大物あるあるだな

影武者とか替え玉

ほとんど都市伝説だけど


246:本当にあった怖い名無し

都市伝説が本当だったと聞いて

参上∠( ˙-˙ )/

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