第36話【何故】配慮なんて知るか!!全部実況する!!(ヤケクソ)【こうなった?!】12

***


遡ること数時間前。

ルルは警察にて事情聴取を受けていた。

その際に、彼女は担当の警官に昨夜助けてくれたユートについて訊ねたのだ。

ヴィンセントについては聞くまでもないくらい有名人だった。

しかし、ユートに関してはなんの情報も無かったのだ。

警官はユートが王立魔法学園の生徒であること。

そして、そこの生徒会に所属しており、今回の件に絡むに至った経緯を説明してくれた。


(まさか、王立魔法学園の学生さんだったなんて)


おそらく、ルル以上にユートのことを知りたがったのは、彼女の両親だった。

娘の恩人だ。

是非ともお礼がしたかった。

母親が事情聴取に同行してくれた。

ヴィンセントは有名人なので、冒険者ギルドを通せば今回の件に関するお礼の手紙と品を渡せる。

しかし、ユートに関しては全く情報がないのでそれすら出来なかったのだ。

だが、警官がユートについて教えてくれたので、なんとかお礼が出来そうだと母親は安心した。

事情聴取が終わるとすぐに、母の運転する車に乗り込む。

そして、ユートに渡す菓子折りを買いに行こうということになった。

王都でも有名な高級菓子店へ行こうとした時、母の携帯端末に連絡があった。

職場からの急な呼び出しだ。

仕方ないので、今日は一旦帰宅することになった。


家に着き、しかし時間も中途半端なので今日は学校を休むことにした。

昨日の今日だ。

学校に行ったところで、奇異な目で見られることは想像できた。

不躾な質問攻めにあうことも。

なら、今日はゆっくり休んで英気を養って明日に備えよう、と考えた。

けれど、家でゴロゴロしていてもどうにも落ち着かない。


頭にチラつくのは、昨夜のユートとヴィンセントの姿だ。

いてもたってもいられず、ルルは自分の貯金箱を引っ張り出して、中身をあらためた。

コツコツ貯めてきたお金である。

小銭と一緒に折りたたんだ紙幣もある。

合わせると十万ジェニー程になった。


交通費含めても余裕だ。


ルルは大人しい性格だ。

でも、行動力はあるのだ。


正装ということで、現在通っている学校の制服に着替える。

それから、紙幣を数枚財布に突っ込んで、家を出た。

最寄りのバス停に向かう。

制服だから、もしかしたら補導されるかな、とバスに乗って気づく。

しかし、意外と大丈夫だった。


母親と来る予定だった高級菓子店に入る。

圧倒的なキラキラ感に気圧される。

そんな彼女に店員が声をかけてきた。


「なにかお探しですか?」


「あ、あの、その、お世話になった人に贈りたいんですけど」


緊張しながら答える。

ルルは予算も一緒に伝える。

店員は嫌な顔ひとつせず、丁寧に接客してくれた。

結果として、ルルは満足な買い物が出来た。

菓子折りの入った紙袋を二つ手にして、店員さんにもよくお礼を言って、店を出た。


そこから、王立魔法学園へ向かおうとする。

携帯端末を取りだして、地図アプリを出そうとしところで、


がっ!!


衝撃。

それとともに、ルルはペタンと尻もちをつく。


「え、あっ!!

どろぼう!!」


さっきまで持っていた紙袋が消えていた。

ルルの視線の先には、自転車に乗った人物が走り去っていく姿が見えた。

すぐに立ち上がって追いかけようとする。

そんなルルの横を、一陣の風のごとく走る者がいた。

ヴィンセントだった。

ヴィンセントはあっという間に自転車に追いついたかと思うと、ひったくり犯に飛び蹴りを食らわせて、転倒させてしまった。

ザワザワと周囲の人達がざわめきだす。

ヴィンセントは気にした風もなく、菓子折りを取り返してルルの元にやってきた。


「これでござろう?

って、おや??」


ヴィンセントがルルに気づいた。


それから、誰かが呼んだのだろう。

パトカーが駆けつけてきた。

ひったくり犯はお縄になった。

二度目の事情聴取を受け、わりとすぐにルルとヴィンセントは解放された。


「ちょうど良かったです。

昨夜は本当にありがとうございました」


頃合を見計らってルルは、ヴィンセントに菓子折りを渡して頭を下げた。

冒険者ギルドへ行く手間が省けた。


「そんな、むしろ悪いでござる」


と言いつつ、無碍にもできないのでヴィンセントは菓子折りを受け取った。


「では、これからユート氏のところにも行くでござるか?」


「はい」


ルルの返答に、ヴィンセントはしばし考えて、


「もし良ければ同行するでござるよ?」


「いいんですか?!」


昨日の今日で、しかもひったくりに巻き込まれたばかりでルルの心は折れそうだった。

そのため、この申し出はとても嬉しい。

そうして、二人で王立魔法学園へ向かおうとしたところで、


「あ、やっぱりヴィンセントじゃん」


チェスタが現れた。

チェスタの住処はこの近くで、ひったくりが出たと聞き野次馬しにきたのであった。


チェスタは、ヴィンセントとルルの二人がこれからユートのところに行くということを聞いて、


「なんか面白そうだな。

僕も行こう」


着いてくることになった。


この一連の流れを聞いた、当のユートはなんとも言えない顔になった。

昨日の今日で災難にあったルルも大概だが、現状が現状だ。

王立魔法学園の校門前というこで、さらには英雄と迷探偵が揃っている。

目立つのだ。


「えと、場所、変えようか」


ユートは、ルルにそう提案した。

四人は、王立魔法学園近くにある喫茶店にまでやってきた。

あらためて、ルルがお礼の菓子折りを渡してくる。


ユートは、それを受け取った。


「なんか、逆に気を使わせちゃったみたいで」


「いえ!私がしたかったんです!!」


そんなユートとルルのやり取りを、ヴィンセントとチェスタが微笑ましそうに眺めていた。


そんなことがあった、さらに翌日のことだ。

昨日のことがあったからだろう、さらに登校時の視線が多くなった。

ヒソヒソとした話し声も、中身は誹謗中傷である。

他校の生徒と不純異性交友してるだのなんだのと、言われていた。

ヴィンセントやチェスタをわざわざ呼びつけていたとか、いい気になってるとか、とにかく色々言われている。


(なんで、そんなに他人に興味あるんだか)


反撃しないとわかっているから、彼ら彼女らは悪口をやめないのだ。

たぶん、いいガス抜き、あるいはサンドバッグ扱いなのだろう。


(今日も授業サボろ)


昼寝でもしていないとさすがにやっていられない。

そう、ユートは考えていたのだが。

どうにも、そうは問屋が卸さないようだ。


■■■

832:魔眼保持者

\( 'ω')/アアァァァァアアアァァァァアアア!!!!

くっそ、(゜Д゜)ウゼェェェ!!!!


833:名無しの冒険者

おう、どうした?


834:名無しの冒険者

まだあったのか、このスレ


835:名無しの冒険者

魔眼保持者、2日ぶりの帰還


836:特定班

とりま、速報ながしとくか


837:特定班

緊急速報:魔眼保持者、風紀委員たちと勝負することになった件


838:名無しの冒険者

はい?


839:名無しの冒険者

え、風紀委員、死ぬの?


840:名無しの冒険者

魔眼保持者、風紀委員のこと殺すのか


841:魔眼保持者

殺さねーよ?!


842:名無しの冒険者

そうか、魔眼保持者、ついにブチ切れてコロコロするのか


843:魔眼保持者

だから、殺さないって!!

仕事以外でそんなことしたら、捕まるわ!!


844:名無しの冒険者

>>843

>仕事以外でそんなことしたら、捕まるわ!!

せやな(´・ω・`)


845:名無しの冒険者

なんでそんなことになってんだよ?


846:名無しの冒険者

とりま経緯


  バン   はよ

バン (∩`・ω・) バン はよ

  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/

  ̄ ̄\/___/


847:魔眼保持者

今日登校したら、いきなり呼び出しくらって

他校の女子生徒と交際してるのは、校則違反だから

制裁加える

吊し上げだ!っていきなり言われて、今日の放課後

タムズ川に来いって言われた


848:名無しの冒険者

それ果し合い


849:名無しの冒険者

うわぁ


850:名無しの冒険者

風紀委員が暴力振るっていいんか??


851:名無しの冒険者

風紀委員とは、で検索掛けちゃったじゃないか


852:名無しの冒険者

ごめん、意味わかんない


853:特定班

三行でわかる、魔眼保持者決闘までの経緯~

(๑´ω`ノノ゛ぱちぱちぱち✧


魔眼保持者、人助けでモテる!!

婚約者どころか彼女すらいない、風紀委員長、キレる!

ムカつくから呼び出して殴るべ(p*`・ω・´*)q


854:名無しの冒険者

Wwwww


855:名無しの冒険者

なるほど、わからん


856:特定班

もっと簡単に言うと、用事があって魔眼保持者目当てに

底辺冒険者と迷探偵が王立魔法学園まで行ったんさ

そこに、さらに魔眼保持者が助けた子もいたから

可愛い&綺麗な女性に囲まれている魔眼保持者が、妬ましくなったってこと


857:名無しの冒険者

男の嫉妬って見苦しいなぁ


858:名無しの冒険者

(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-


859:名無しの冒険者

あー、つまり

魔眼保持者氏ねってことか

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