第30話【何故】配慮なんて知るか!!全部実況する!!(ヤケクソ)【こうなった?!】6

どの国でもそうだが、闇の部分が存在する。

ウィスティリアでも、それは例外ではない。

そもそも、二年前までウィスティリアは狂った国だった。

貴族の腐敗、あちこちに戦争を仕掛ける王。

でも、二年前革命が起きた。

王位継承権最下位だった、妾腹の王女が王と直系の兄弟姉妹や、その取り巻きだった腐った貴族たちを排斥、粛清したのだ。

そして、玉座についたのが現王であるラトラ女王陛下であった。

それを成し遂げられたのは、彼女だけの力ではなかった。

ウィスティリアの闇の部分。

主に暗殺や諜報、情報操作などを行う組織があった。

その組織――暗部がラトラに味方したのである。

そして、革命は成功したのだ。

しかし、ウィスティリアの暗部は特に謎が多い。

嘘か本当かは知らないが、二年前の革命時、暗部を率いていたのは弱冠12歳の子供だったという噂がある。


(歳的には、その暗部の総隊長と同年齢なんだよなぁ)


チラ、とチェスタはユートを見た。

ユートは、チェスタの指示に従って捕まえてきた人物を椅子に拘束しているところだ。


やがて、どうやっても縄抜けが出来ないよう拘束されたその人物に、チェスタは話しかけた。

場所は、チェスタが用意した貸倉庫である。


「おい!落ちこぼれ!!

こんなことしてタダで済むとおもってるのか?!」


その人物――王立魔法学園二年生の男子生徒はユートにむかって喚いている。

チェスタが調べた所によると、この男子生徒も貴族の出だ。

ただし、七男坊で中々の悪のようである。


「ガタガタ、うるっせーな」


男子生徒にむかって、チェスタがドスの利いた声でそんなことを口にした。

なんなら、椅子ごと男子生徒を蹴倒す。


「お兄さんさ、学園の情報を魔族側に流してたでしょ?」


「な、なんのことだ!?」


「しらばっくれるんじゃねーよ」


チェスタはエルフだというのに傍から見たら、ヤのつくお仕事の人か、マのつくお仕事の人にしか見えない。


「アンタが小遣い欲しさに、魔族側に学園の情報を流したのは調べがついてるんだ」


しかし、知らぬ存ぜぬを男子生徒は繰り返す。

事前にユートがチェスタから聞いたところによると、この男子生徒、あの病院がパンクすることになった一件に絡んでいたらしい。


(それにしても、探偵ってこんなやり方で尋問もするのか)


なんというか、もう少しスマートにやると思っていた。

その光景を、ユートはしばらく眺めていたが、暇なので掲示板に報告の書き込みをしようと、携帯端末を取り出した。


■■■


901:魔眼保持者

とりま、いろいろ進展したから

報告来たー


902:名無しの冒険者

お、来たな


903:名無しの冒険者

おかありー


904:底辺冒険者

とりあえず、何がどうなっているのか知りたいでござる


905:魔眼保持者

【同級生】に、魔族に変身した女子について話を聞いたあと、今度は、考察厨兼迷探偵が目をつけていた生徒から話を聞くために、拉致した


906:名無しの冒険者

んんん?


907:名無しの冒険者

ん"ん"ッッwww


908:名無しの冒険者

>>905

>拉致した

おいwww待てやwww


909:名無しの冒険者

話が飛んだなぁ


910:魔眼保持者

なんか、考察厨兼迷探偵のメインは、この生徒だったらしい


■■■


男子生徒の悲鳴をBGMに、ユートは説明を書き込んで行く。

書き込みながら、


(俺が魔眼で頭の中見れば、1発なんだけどなぁ)


と思わなくもなかった。

事実、そうなのだから仕方ない。

というか、チェスタもだいぶ変わり者だ。

頭の中を読まれるとわかっていながら、一緒に仕事をしたいだなんてとても正気とは思えない。


(……そういや、画面越しにだけど俺、あの人に吐かされてるんだよなぁ)


以前、実験と称してチェスタが自分の頭の中を読めと言ってきた事があった。

面白そうだったので協力したら、あまりの情報量にユートの脳の処理が追いつかなくて吐いてしまったのだ。


「あ、そういや貴族嫌いって言ってたから、それもあるのか??」


掲示板に書き込みしつつ、いまだ続く尋問という名の拷問をチラ見する。

チェスタは自分で、貴族が嫌いだと言っていた。

それもあって、ユートの魔眼に頼らずに自分自身であの男子生徒を痛めつけているのかもしれない。

説明の書き込みが終わったので、三十秒ほど拷問の方も録画する。

アプリで簡単に加工が出来るので、男子生徒の顔をモザイク加工し、声も変えて、掲示板に貼り付けてみた。

スレ民からの反応が盛り上がる。


■■■


923:底辺冒険者

うわぁ、ノリノリでござるな

考察厨兼迷探偵氏


924:名無しの冒険者

今度、俺のことも殴ってくれないか頼んでみよう


925:名無しの冒険者

>>924

よぉ、変態


926:名無しの冒険者

>>924


| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

| お巡りさん、コイツです |

|______ ___|

 ____  V

 \=@(ヽ

  ( ・∀・)| ∧_∧

  // У ノ(`・ω・)

 (フ==◎=|と  ニア

  (_)_) しーJ


927:名無しの冒険者

でも、いくら魔眼保持者が元暗部だからって

わざわざ拉致らせる必要あったん?

貴族の七男ってことは、跡取りってわけでもないから護衛とか緩そうだけど


928:魔眼保持者

>>927

なんか、他校でも同じように魔族と繋がってた生徒や教師を尋問したらしいんだけど

情報吐かせる前に、考察厨兼迷探偵の目の前で暗殺されたから

それを防ぐ目的もあって、俺を同行させたらしい

拉致は、俺の方が得意だろってことで頼まれた


929:名無しの冒険者

え、それじゃ、魔眼保持者のメインは護衛??


930:魔眼保持者

まぁ、そうなるかなぁ

発信機や、場所わかる魔法術式がこの七男に施されてたから、拉致した時に気絶させて解除したけど


931:名無しの冒険者

うわぁ、用意周到だなぁ


932:名無しの冒険者

つーか、魔眼保持者の魔眼使えばいろいろ一発でわかるだろ

なんで考察厨兼迷探偵、それしてないんだ??


933:魔眼保持者

貴族嫌いだって言ってるし

自分で痛めつけたいんじゃないかなぁ

あ、お客さんだ


934:名無しの冒険者

客?


935:名無しの冒険者

(*´・ω・)(・ω・`*)ん?


936:魔眼保持者

七男を拉致したのがバレたな

ちょっと相手してくるー


937:名無しの冒険者

おぅ、いてらー(・ω・)ノシ


938:名無しの冒険者

てらー( ノシ ・ω・)ノシ


939:名無しの冒険者

いてらー


940:名無しの冒険者

つーか、いい感じにスレッド消費してるな

こりゃ、魔眼保持者が戻ってくる前に、終わるな


941:魔眼保持者

終わったー


942:名無しの冒険者

って、はやっ!!


943:名無しの冒険者

早いな、おいwww


944:魔眼保持者

いやぁ、大漁大漁

(´・ω・)=3

つ【モザイクがかかっているが、数人の魔族が折り重なってる画像】


945:名無しの冒険者

殺したん?


946:魔眼保持者

>>945

いいや、生け捕り

とりま、考察厨兼迷探偵にも報告した


947:名無しの冒険者

生け捕りって

そんなことして、どうするん?


948:名無しの冒険者

>>947

そりゃ、情報抜くんだろ


949:名無しの冒険者

そんな簡単に口割るかね?


950:魔眼保持者

>>949

魔眼使って、全部すっぱ抜く

考察厨兼迷探偵からもそうしろって指示が出たからさ


951:魔眼保持者

とりま、考察厨兼迷探偵の尋問も終わったみたいだ

魔族の方が終わり次第、また書き込みに来る

あ、でもスレッドが残り50切ってるのか

んじゃ、後でまた新しいスレ立てるわ


952:名無しの冒険者

お、了解(*`・ω・)ゞ


953:名無しの冒険者

待ってる


954:名無しの冒険者

了解


955:名無しの冒険者

いてらー


956:名無しの冒険者

てらー



■■■



携帯端末から、積み上げた魔族へユートは視線を移す。

全員気絶させていた。

しかし、その中の一人の意識が戻った。

その魔族が目にしたのは、禍々しい光を宿した瞳を持つ少年の姿である。


「ひぃっ?!

ま、魔眼保持者のバケモノ?!」


魔族側でも、魔眼保持者というのはバケモノ扱いされている。

かつて、魔族の国を滅ぼしてきた存在だからだ。

だから、ある程度感情を出さないよう訓練されているこの魔族でも、恐怖を押さえられなかった。

破壊と死を撒き散らす、化け物。

そんなものを、人間の国は飼っている。


「そうですよー、化物ですよー、ガオー」


恐怖に震える魔族へ、ユートはおどけてみせた。

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