第3話【死の谷】探索開始なう!【着いた(*・ω・*)wkwk】1

「すっげぇ!」


目の前に広がる光景に、ユートは独りごちた。

赤茶けた広大な大地に、残丘やテーブル形の台地が広がっている。

有名な映画の撮影にも使われた場所らしい。

世界一有名な荒野の観光地【死の谷デス・バレー】である。

目をキラキラさせつつ、しかし掲示板を立てることは忘れない。

そんな彼の片手には携帯端末、もう片手にはスレ民に勧められるがまま購入したガイドブックがあった。

そこには、【死の谷デス・バレー】という物騒な地名含めた説明が載っている。

元々、この地は【戻らずの荒野】、【呪われた大地】と呼ばれていた場所である。

というのも、元々は所謂【姥捨山】よろしく口減らしに使われていたらしい。

そして、この地にはかつて高ランクモンスターが多数生息していた。

つまりはそういうことである。

時代が進むにつれ、その慣習は消え、いつしか冒険者達の修行の場となっていった。

そして、現代。

高ランクモンスターも冒険者達によってことごとく討伐され、今では奥地に僅かに生息しているのみである。

観光地化されてからは、人が踏み入る場所ではほぼその姿を見ない。

時折、低ランクモンスターが走り回っている程度だ。

この低ランクモンスターも、臆病なタチのため観光客に寄ってくることはほぼ無い。

観光客の姿を見れば逃げる。

その姿を携帯端末で画像に収め、SNSなどに投稿する者はちらほらいたりする。


つまり、現代においてここはそう言った場所なのだった。

■■■


死の谷デス・バレー】探索開始なう!【着いた(*・ω・*)wkwk】


1:魔眼保持者

着いたー!!

つ【死の谷デス・バレーの画像】


2:名無しの冒険者

お、立ってる


3:底辺冒険者

待ってたでござるよ、魔眼保持者氏

(*・ω・*)wkwk


4:魔眼保持者

日帰り旅行なんて初めてだから楽しみだ!


5:名無しの冒険者

一応、行方不明者探すって目的があるからなー

忘れんなよー


6:魔眼保持者

わかってるって

あ!屋台がある!!

なあなあ、このティッシュにくるまってるのなんて食べ物だ??


7:名無しの冒険者

ティッシュ?


8:名無しの冒険者

画像貼りつけろ


9:名無しの冒険者

紙にくるまってるって言うと、ハンバーガー系かな?


10:名無しの冒険者

デス・バレーにはハンバーガーの屋台は無かったと思うけど

揚げ物系だったはず


11:名無しの冒険者

>>10

最近は女性客が多いってことで、たしかクレープ屋が出来たはず


12:名無しの冒険者

とりま、イッチ画像


13:魔眼保持者

つ【クレープの屋台の画像】


14:名無しの冒険者

Wwwww


15:名無しの冒険者

wwww


16:名無しの冒険者

それ、クレープwww


17:名無しの冒険者

ティッシュって、おまwww

ティッシュってwwwおまwww


18:魔眼保持者

買ってみたー

初めて食う!

つ【クレープのフルーツミックスの画像】


19:名無しの冒険者

何味にしたのー??


20:名無しの冒険者

あー、そっかずっと研究施設か暗部で働いているかだったから、クレープ初めてなのかスレ主


21:名無しの冒険者

たんとお食べ、イッチ


22:魔眼保持者

なんか、たくさん果物が入ってるやつにした!

並んでた女の子達が、みんなそれ買って食べててさ

美味そうだったから!


23:名無しの冒険者

フルーツミックスクレープか


24:名無しの冒険者

女しか並んでない中に並べる勇気よ


25:名無しの冒険者

スレ主、変な目で見られなかったか?

大丈夫か??


26:魔眼保持者

物珍しそうな視線は向けられてるけど

殺気は向けられてないから大丈夫!


27:魔眼保持者

( ゜д゜)ンマッ!

このティッシュみたいな皮のやつ美味っ!


28:名無しの冒険者

そうか、美味いか

クレープって言ってくれ、頼むから


29:名無しの冒険者

たんとお食べ

ティッシュみたいな皮のやつ、というパワーワードよwww


30:名無しの冒険者

奇異な物をみる視線と殺気を一緒にされてもな

( ̄▽ ̄;)


31:魔眼保持者

うげっ


32:名無しの冒険者

ん?


33:名無しの冒険者

どした?


34:名無しの冒険者

クリームでも腐ってたか?



■■■


屋台の近くに設置されたベンチ。

そのベンチに腰を下ろし、ほかの観光客に混じって初クレープを楽しんでいたユート。

そんなユートを見つけ、声をかける人物がいた。

イーリスだった。


「こんなところで会うなんて奇遇ね」


携帯端末に、【うげっ】という文字が偶然書き込まれてしまう。

やべっ、と思いつつユートは携帯端末をポケットにねじ込んだ。

下手に書き込みをしているところを見られたくはなかった。


「……ひとり??」


イーリスはキョロキョロと周囲を見た。

そんなイーリスの背後には、取り巻き達がいてクスクスと嘲笑を浮かべている。


「あー、まぁ」


ユートはイーリスの問に肯定する。


「観光地なのに??」


「悪いか?」


「悪くはないけど」


そう言いつつ、イーリスはユートの食べているクレープを見た。


「それを食べに来たの?」


ユートは気づかなかったが、わざわざ休みに一人寂しくクレープを食べに来たのか?

そんなニュアンスが含まれている言葉である。


「ん、まぁ、そんなとこ」


嘘ではないのでこれも肯定しておく。


「イーリス様こそ、こんなところに何しに来たんだ?」


口にクリームをつけたまま、ユートは逆に問い返した。

学生は、カラオケとかゲーセンとか、そういうところに遊びに行くものだ、とスレ民に聞いていた。

こういう観光地は、どちらかというともう少し大人になってから来るものらしい。


「アンタなんかに関係ないでしょ?」


イライラと取り巻きの女子の一人が言ってくる。


「イーリス様、早く行きましょう」


なんて言って、いつも通り邪険に扱われてしまう。

そこで、気づいた。

彼女達の服装が、実技授業時に着用する戦闘服であることに。

それに気づくと、ちらほらと明らかに観光客ではない、他校の生徒達の姿も目についた。

彼ら彼女らもまた、デザインこそ違うものの戦闘服に身を包んでいる。


「えぇ、そうね。

ユート、悪いことは言わないわ。

それを食べたら早く帰ることよ。

それじゃ、よい休日を」


「イーリス様も」



彼女達の背を見送って、すぐさまユートは掲示板に書き込んだ。


■■■



53:魔眼保持者

ドラゴン襲撃事件の時の子、同級生だな

その子に会った

びっくりした

今後はその子のこと、同級生って書くわ

つーか、その子だけじゃなくて他の学校の生徒もちらほらいる

戦闘服着てるんだけど

なんか演習とか、特訓予定とかあるんかな??


54:特定班

調べてみようか?


55:魔眼保持者

>>54

なんか気になるから、頼んますm(_ _)m


56:考察厨兼迷探偵

行方不明者の件と関係ありそう


57:魔眼保持者

>>56

噂じゃないん??


58:考察厨兼迷探偵

>>57

それが、ただの噂ってわけでもないらしい


59:底辺冒険者

>>57

死の谷デス・バレー】の行方不明者については、捜索依頼が冒険者ギルドにも出てるでござる

それも、複数

それを受けた冒険者達も消えているんで、近々難易度ランクがCからAに格上げされるとか聞いたでござる


60:特定班

わかったぞ

王立魔法学園含めた、他のエリート校にも捜索を手伝ってくれって冒険者ギルドから打診があったらしい

被害が増え続けてるんだと

んで、各学園でも優秀有能な生徒たちが選抜されて今日捜索に来たらしい


61:名無しの冒険者

えー、貴族の子らだろ?

逆に危なくないか??


62:特定班

進路がレンジャーだったりする子もいるし

こういう活動で内申点とか上げられるんだろ

知らんけど


63:魔眼保持者

つーことは、目的は一緒かぁ

_| ̄|○ il||li


64:名無しの冒険者

顔見られないように気をつけろよー


65:底辺冒険者

コートは持ってきたでござるか、魔眼保持者氏?


66:魔眼保持者

>>65

もちろん


67:名無しの冒険者

自分、こういう依頼って受けないんだけど

行方不明者って、どういう人達が多いん?

やっぱり外国からの観光客?


68:考察厨兼迷探偵

そういや、俺もちゃんと調べてなかった

特定班、どうなんだ??


69:特定班

そうだなぁ

ちょっとまっててくれ


70:底辺冒険者

冒険者ギルドに貼ってある依頼書は、女性の捜索依頼が多いでござるよ


71:特定班

うーん、これは( ̄▽ ̄;)


72:名無しの冒険者

>>71

どした??


73:魔眼保持者

ウマッ (° ∀° ≡ ° д°) ウマッ


74:考察厨兼迷探偵

>>73

そうか、クレープそんなに美味いか


75:魔眼保持者

クレープ食べたら喉乾いたから、今はカエルの卵みたいなのが入ってるジュース飲んでる

(≧ω≦)ンマーッ


76:名無しの冒険者

カエルの卵??


77:名無しの冒険者

そんなゲテモノジュース売ってたっけ??


78:底辺冒険者

あー、タピオカ、もしくはバジルシードのドリンクでござるね

この前、テレビで特集されてたでござるよ

個人的にはバジルシードの方が、めちゃくちゃカエルの卵っぽい見た目だと思うでござる


79:名無しの冒険者

つ【タピオカの画像】

つ【バジルシードの画像】


80:名無しの冒険者

あー、これはwwwたしかにwww

カエルの卵wwwwww


■■■


カエルの卵というパワーワードで草を生やしまくるスレッドを眺めていると、やがて特定班が今回の女性行方不明者に関する情報を書き込んでいく。

それに目を通そうとした時。

トントンと、肩を叩かれた。


「あ、やっぱり君か」


顔を上げる、そこには太陽みたいな金髪をした美少年が立っていた。

数日前、教室ですれ違ったエディだ。

その隣には見知らぬ少年が控えている。

二人とも、先程のイーリス達と同じように戦闘服姿である。


「先日、教室ですれ違ったんだけど覚えてないかな?」


エディは人好きのする笑みを浮かべ、話しかけてきた。


「えっと、エディ様でした、よね?」


ユートしては、彼とは初対面に近い。

スタンピードを止めた英雄として、彼はいまやその名を知らぬ者はいないほどだ。


「あぁそうだ。俺の名前を知ってるなら好都合。

しかし、すまないな。

君の顔は知っているが、名前を知らないんだ教えてもらえるかな?」


「あ、えと、ユートです」


「ファミリーネームは?」


「クルースです。

ユート・クルース」


元々、ユートには名前は無かった。

研究施設では番号。

暗部ではコードネームで呼ばれていた。

それが名前と言えなくはなかったけれど、人々が言うところの名前とはやはり意味が違っていた。

【ユート・クルース】という名前は、学園に飼われる時に支給されたものの一つだった。

ユートも、クルースも、どちらもよくある名前だ。

珍しくもなんともない名前である。


「そうか、ユートか。

いい名前だな」


社交辞令に、ユートは愛想笑いを浮かべる。


「ところで、一人かな?」


「先程、イーリス様にも会いました。

同じことを聞かれましたよ」


そう前置きして、一人だと告げる。

なんか可哀想な人を見る目を向けられた。


(ボッチってそんなに異様なものなんだろうか)


今のところ、ユートは独りで行動することが普通だ。

休みの日でもそれは変わらない。

でも、それを異様とか寂しいとか思ったことが無かった。


「なにかあるんですか?」


内心のつぶやきは出さず、ユートは訊ねた。


「あぁ、そうか知らないのか」


ユートの疑問に、エディは嫌な顔をせずに答えてくれた。

その説明は、ほぼ掲示板に書き込まれたものと同じだった。


「休日までお仕事とは、凄いですね」


「仕方ないさ」


仕方ない、と言いつつエディはどこか楽しそうだ。


「さすが英雄」


普通の生徒だったら口にするだろう言葉。

それをユートが口にした時。

エディの顔が複雑なものに変わった。


「……っ、」


エディはなにか言おうとする。

やがて、彼から滑りでたのは、


「あまり、褒めないでほしいな」


そんな言葉だった。


「イーリスから聞いているよ。

君は、知っているんだろう?」


「なんのことですか?」


ユートは、ちらりと隣に立つ少年を見た。

エディは全てを察して、返してくる。


「あぁ、大丈夫だ。

彼は全てを知っている」


と、そこでエディははっと気づく。


「彼の紹介がまだだったな」


エディは、少年へ目配せする。

少年が頷いて、自己紹介してきた。


「ルドルフ・シュルツと申します。

エディ様の護衛です」


「どーも」


ユートは育ちが分かるように。

蔑まされるような返し方をする。

しかし、ルドルフは眉を顰めることは無かった。


「さて、君が【黒衣の者】についてイーリスから聞いたということは承知している。

だからこそ、俺を英雄と呼ぶな」


「はぁ、わかりました」


「それと、さっきも説明したが半年ほど前から行方不明者が出ている」


エディは、視線であちこちの屋台の端っこに貼り付けられている注意喚起の貼り紙を示す。

観光協会が出している、注意喚起の貼り紙だ。

行方不明者が出ているので、通常よりこの地は営業時間が短縮されている、というものだ。

なるべく単独行動を避け、遊歩道から外れず、なにかあったら即座に照明弾を打ち上げる。

そうすればレンジャーが駆けつけるので指示に従うように、とのことだった。

照明弾は、遊歩道の入口で配っているらしい。


「なるべく早く帰宅することを薦めておく」


「ご忠告、ありがとうございます」


「それじゃ、良い休日を」


エディはイーリスと同じことを言って去っていった。

ルドルフがそれに続く。

一応、落ちこぼれとはいえ同じ学び舎に通う生徒の一人であるユートへ注意しにきたというところだろう。

ユートは、再び携帯端末へ視線を落とす。

スレッドを少しだけ遡る。


■■■


81:特定班

盛り上がってるところ悪いが、情報貼り付けるぞ

あくまで、捜索依頼が出てるのが女性観光客が多いってだけだ

調べてみたら、老若男女関係なく行方不明になってるっぽい


82:特定班

男性観光客の捜索依頼も出てるな

あと、何人か死体も出てる

これは公表されてないみたいだ


83:名無しの冒険者

死体?!


84:特定班

死体が出てることは

学園の生徒たち、いや学園側にも非公開みたいだな

ま、無理もないか


85:名無しの冒険者

なんで??


86:考察厨兼迷探偵

>>85

わざわざ学生使ってるってことは、人手が足りないってことだ

現場を経験させるってのもその通りなんだろうが

生徒のほとんどは貴族なんだろ?

それも軍事学校の方と違って、代理で飼ってる庶民を入学させてるわけでもない

本物の貴族の生徒たち

それも、粒ぞろい、優秀な人材の卵たちだ

なにがなんでも、その手を借りたかったんだろ


87:名無しの冒険者

えーと、つまり?


88:考察厨兼迷探偵

>>87

察するに、それだけの緊急事態が起きてるってことだ


89:特定班

ほとんどの事は考察厨が説明してくれた

あと俺から書き込める情報は、死体の状態がショッキングすぎるってことだ


90:魔眼保持者

ショッキング?


91:特定班

死体には何かに食われた跡があった

つまりは、発見され、秘匿された死体は食い残し、食べカスだったってことだ


92:名無しの冒険者

食べカスって

((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


93:名無しの冒険者

何に食われたって言うんだよ?


94:特定班

調べた限りじゃ、肉食系のなにか、としかわからなかったみたいだ


95:名無しの冒険者

つーても、候補くらい絞れるだろ?


96:特定班

たぶん、ドラゴン系かキメラ系かもしれないってことしかわかってないらしい


97:名無しの冒険者

ドラゴンもキメラも別だろ

噛み跡とかそういうの、だいぶ違うと思うんだけど


98:考察厨兼迷探偵

たぶん、複数の人喰いモンスターがいるってことなんじゃねーの?


99:名無しの冒険者

あ、なるほど


■■■


ユートはスレ民達の書き込みに、目を通す。

スレッドは少しずつ進み、特定班と考察厨達の人喰いモンスターについて考えるスレとなりつつあった。

やがて、考えをまとめると、書き込みをした。


■■■


200:魔眼保持者

とりま、安価通り行方不明者を探しつつ観光地を実況するってことでいいか?

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