第2話【身バレ】正体隠して魔眼使って遊びまくった末路【しそうwww】後編

■■■


101:魔眼保持者

とりま、次の休みに凸する場所決めるぞー


102:名無しの冒険者

いや、安価すんのかよwww


103:底辺冒険者

魔眼保持者氏

ブレないでござるなぁwww


104:特定班

>>103

(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-


105:魔眼保持者

>>200

次の凸場所


106:名無しの冒険者

ヽノヽ⌒*(゜∀。)*⌒ ノヽノヒャッハーwwwww

新鮮な安価だぜぇ!!


107:名無しの冒険者

( ゜∀゜)o彡°安価!安価!



■■■


盛り上がるスレを、ユートはニマニマと眺める。


「はてさて、どこに決まるやら」


ダンジョンになるか。

それとも、この前ドラゴン襲撃事件と同じような、本来ならそこに生息していないモンスターの目撃情報がある場所か。

もしかしたら大穴で、心霊スポットかもしれない。

さらに大穴なら、出てきた候補全部、なんて結果になるかもしれない。

何回かそれを経験した。


「たのしいなぁ」


ユートが呟いた時。

パタパタと足音が聞こえてきた。

生徒か教師か、はたまた校内の清掃等を行っている用務員か。

ユートは手早く、掲示板へ書き込みをする。


■■■

126:魔眼保持者

悪い、他人フラグだ

一旦落ちる


127:名無しの冒険者

おや


128:魔眼保持者

とりま、安価の結果はあとで確認くる

スレの保守頼む


129:底辺冒険者

了解したでござる


130:特定班

了解(*`・ω・)ゞ


131:名無しの冒険者

おう、いてらー


132:名無しの冒険者

てらー(*ノシˊᗜˋ*)ノシ


133:名無しの冒険者

イテラ━━━ヽ(´∀`ヽ)━━━ッシャイ!


134:名無しの冒険者

安価なら、高ランクダンジョン


135:名無しの冒険者

いてら

安価なら、【死の谷デス・バレー

そこの探索

イッチなら出来るだろ


■■■


流れていく書き込み。

それを画面から消して、ユートは携帯端末をポケットに放り込む。

その直後、空き教室の扉が開いた。

現れたのは、イーリスだった。

ユートを見つけるなり、声を上げる。


「居たー!!」


優雅さとか、貴族の威厳は皆無。

年相応の少女の姿が、そこにあった。


「…………」


「こんなところでなにしてるの?!」


「……夕寝??」


すっとぼけた反応に、イーリスの顔が怒りに染まっていく。

でも、それを流してユートは鞄を持って立ち上がった。

寝る子は育つという古の言葉通り、ユートの方がイーリスと並ぶと背が高い。


「イーリス様こそ、こんなところにまで何しに来たん??」


ユートは探りも兼ねて訊ねる。

そんなユートに、彼女はずいっと一枚の書類を突きつけてきた。


「なにこれ」


「次の実技授業、校外でやるでしょ?

その班員リスト。

先生に提出しないとなの!

貴方は私の班になるから、早く書いて!」


「……え、なんで??」


適当にサボる気満々だったユートは面食らう。

好きな人と組みなさい、から始まって、ボッチ扱いをくらうアレである。

誰もユートと組みたがらないのだから、ボッチになって適当にサボる路線が確定していたはずなのだ。


「なんでって」


一瞬、イーリスが言葉に詰まった。

でも、すぐに、


「あ、貴方のこと、先生に頼まれてるのよ!!」


「はい??」


ユートは首を傾げ、もう一度繰り返した。


「え、なんで??」


何故、イーリスがユートのお目付け役みたいなことを教師から頼まれているのか、理解できない。

彼女は、名門貴族の令嬢だ。

たしかに、将来的にはその家を継ぐだろう。

そしたら、この国の闇の部分に触れることもあるだろう。

でも、まだ彼女はユートのような国の抱える闇の一端に触れるような立場ではなかったはずだ。

教師も、基本的にユートが魔眼保持者であることは知らない。

知っているのは、上層部だけだ。

そして、教師陣もユートのことは出来の悪すぎる学園の汚点として毛嫌いしているのだ。

そんな彼に、何故イーリスのような高嶺の花を近づけるようなことをしてくるのか。

謎でしかない。


「……ドラゴン襲撃事件」


ユートの疑問に、イーリスがポソッと呟くように口を開いた。


「はい??」


怪訝になるのも仕方がない。

このイーリスを助け、なんならこの少女が解決したとされている事件が、どうしてここで出てくるのか。

全くわからなかったからだ。

イーリスは説明してくれた。

それによると、あの一件では奇跡的に死者は出なかった。

しかし、また同じことが起きるかもしれない。

そうなった時、一番に被害者となるのはユートだろうと思われた。

嫌われている底辺とはいえ、一応は生徒だ。

その生徒がどうにかなったら、事だ。

パフォーマンスとして、リスクヘッジはしてましたよとするためにイーリスに彼を預けることにしたらしい。

優等生で人がいいイーリスは、それを受けた。

とこういうことらしい。


(……俺が死んでも、適当に無かったことにすると思うけどなぁ)


死んだことすら公表されないはずだ。

一通りの説明を受け、ユートはとりあえずは納得した。


「イーリス様にはご迷惑をかけちゃうなぁ」


なんて、言いながらユートはリストに自分の名前を書き込んだ。

そのリストを受け取って、すぐにイーリスは立ち去るものと考えていた。

しかし、イーリスは空き教室を出ていかなかった。

まだ、なにか用があるのかなと様子を窺っていると、イーリスが口を開いた。


「あの時、ユートは私の近くにいたわよね?覚えてる?」


あの時、というのはドラゴン襲撃事件のことだ。

本来ならいないはずのドラゴン。

それがたまたま襲ってきたのだ。

思わぬ実況ネタに、急遽掲示板を立ち上げてハイテンションで実況した。

とても楽しかった。


「頭打って気絶してた」


本当のことは言えないので、聞き取り調査の時と同じことを答える。


「でも、気絶する前に黒衣の人に助けられたって言ってたじゃない」


こんなこともあろうかと準備していた、フード付きコート。

汚れが目立たないという理由だけで選んだ、漆黒のコートだ。

それを着て、ドラゴンを退治したのである。

めちゃくちゃ楽しかったのを覚えてる。

また倒したいな、ドラゴン。

などと考えつつ、ユートはイーリスに返した。


「そうだっけ?

覚えてないや」


そんなユートの言葉を受けて、じいっとイーリスは彼を見つめた。

まるでユートの頭の中を見透かすかのように、見つめてくる。


「私ね、助けられたんだ。

その黒衣の人に。

だから、アレは私の手柄じゃないの」


「ふーん?」


「言っても信じてもらえない、か」


「んー、と言うか、それ俺なんかに教えちゃって大丈夫なの??

ほら、バラされたりとかさ」


「……そこは、まぁ安心してる。

だって、酷いこと言うようだけど誰もユートのこと信じてないから」


つまり、言い触らしても誰も信じてくれないのだ。


「あはは、本当に酷いこと言うなあ」


さすがにユートも苦笑した。


「でも、ユートは嫌われてはいるけど。嘘つきじゃないから」


「なんで、そんなこと言えんの?」


「なんとなく」


「え、それだけ?」


たったそれだけ。

たったそれだけの理由らしい。


「……私は、あの日の事が夢じゃないって、確信してる」


「そっか、じゃあ、俺を助けてくれた人はイーリス様じゃなかったか」


ユートはおどけて言って見せた。

さらにイーリスの言葉が続く。


「それにね、私だけじゃないんだ」


「なにが??」


「黒衣の人を見たの」


これには、ユートは面食らった。

あの日。

ドラゴン襲撃事件の日。

あの現場には、ユートとイーリスだけだったはずだ。

他の生徒は逃げて、あの場にはいなかったはずなのだ。


(バレている?

いや、それならわざわざこんな話は振ってくるのはおかしい。

この子の性格なら、真正面から聞いてきそうだ。

だとすれば、探りを入れてきている?)


ユートの脳裏に、今後のことが過る。

上層部に呼び出されて、研究施設に逆戻りになるかも知れない。

最悪、処分されるかもしれない。

そのスリルを楽しんでいた部分もある。

いや、今も楽しんでいたりする。

このドキドキ。

この心臓の高鳴りが、自分は化け物じゃなく人なのだと実感するのだ。


「へぇ、ってことは俺みたいに逃げ遅れたドジっ子が他にもいたんだ」


「あ、違うの。

ドラゴン襲撃事件の時じゃなくて、スタンピードの時。

ほら、さっき教室でユートがすれ違ったエディ」


「あ、あー、あの王子様」


思わずユートの口から漏れた単語に、イーリスはクスクスと笑った。


「王子様って。

まぁ、たしかに貴方みたいな一般人から見たら王子様なんでしょうけど」


それを言ったら、イーリスもお姫様になるが、話が進まないのでユートは余計なことは口にせずに彼女の次の言葉を待った。


「彼もね、見たらしいのよ。

そして、助けられたって言ってた」


そう言えば、スタンピードが起こる前日だったか、前々日だったかにあのコートを手に入れたのだった。

同じ学園の生徒がいるから、という理由でそのコートを着てスタンピードを魔眼の能力をフルに使って全滅させたのだ。


「黒衣の人を見て、その人に助けられた??」


ユートの返しに、イーリスは頷く。


「あくまで背格好、あと黒衣って共通点だけだけれど。

私と彼の間では同一人物だろうという意見で一致してる」


真剣な太陽色の瞳が、ユートを写す。


「えと、その、なんでそれを俺に話すの??」


「だって、居たんでしょ?」


「へ?」


「貴方、スタンピードの最前線に」


「え、なんで、し……そう思うの??」


内心、ユートは冷や汗ダラダラだった。

思わず、『なんで知ってるの?』と言いかけたほどには動揺してしまった。


(やっぱり、探り?探りなのか?)


そんなユートの目の前で、イーリスは携帯端末を取り出して何やら操作する。

そして、その画面をずいっとユートへ見せてきた。


「これ、見て」


「え、あ、はい」


それは、とある動画サイトに投稿された動画だった。

高い位置から撮影されていて、カメラも固定されているから防犯カメラの映像だろうと思われた。

王都の端っこにある、商店街。

そこを人々が逃げ惑う。

それを追いかけるのは、様々なモンスターの群れだった。

これは、スタンピードが起きた日の光景だ。

逃げ惑う人々は、それぞれ建物の中や路地へと逃げ込んでいく。

その中に、ユートが映っていた。

映像の中のユートは、他の人が逃げ込んだ路地のひとつに同じように駆け込む。

路地の中まではさすがに動画には映っていなかった。

一秒、二秒と、逃げ惑う人たち、それを襲うモンスター達の映像が流れていく。

やがて、ユートが逃げ込んだ路地からフードを目深に被った黒衣の男が現れた。


(ひぃやっはぁぁォォォァァ!!??)


ユートは、内心で奇声を上げた。


(うっそやろ!!おい、うっそやろ!?)


この時の記憶をひっくり返す。

否定材料を、記憶の中から探しだそうとしているユートに、イーリスは動画を一時停止して、訊ねた。


「これ、路地に逃げ込んだの貴方よね?」


「あ、えー、その」


「その数秒後に、黒衣の人が出てきてる」


「ソデスネ」


楽しいけど、心臓に悪い。

でも、癖になりそう。

とかアホなことを内心で呟いているユートに、イーリスはこう言った。


「ユート、貴方はこの人とすれ違っていたのよ!!」


自信満々な言葉に、ユートの目は点になる。

しかし、イーリスはそんなこと気にせずに続ける。


「ねぇ、この時のこと覚えていない??」


キラキラとした目を向けられる。

とても眩しい。

ユートは、その問いに、


「あー、えー、逃げるのに必死だったから覚えてない」


そう答えたのだった。

ユートの返答に、イーリスは目のハイライトを消す。

そして、使えねーなーコイツという顔になった。


「そ、それじゃ、イーリス様、さよーならー」


ユートは、気まずそうな表情を作ってその場を後にした。

なるべく不自然にならないよう細心の注意をはかり、ユートは寮の自室へダッシュで戻る。

一人部屋なので、誰に気兼ねすることもない。

ユートは、部屋に入るとすぐに声をあげた。


「あっぶねぇぇえええ!!??

でも、いいネタゲットぉぉぉぉ!!!!」


エリート校なので、寮にもそれなりに金を使っている。

つまり、防音もバッチリなので、ユートは遠慮なくそんな奇声を上げた。


ベッドに寝転び、携帯端末を取り出し保守して貰っていた掲示板を表示する。

すでに安価は決定していた。

しかし、それは後回しだ。


■■■


376:魔眼保持者

緊急速報!!

身バレするかと思った!!


377:名無しの冒険者

おや、イッチ


378:名無しの冒険者

おかあり、イッチ


379:名無しの冒険者

身バレ?


380:名無しの冒険者

このタイミングでバレそうになったん??


381:特定班

ちょwwwなにがあったかkwsk



■■■


スレ民達は興味津々だ。

ユートは今しがた起こったことを、おもしろおかしく書き込み、説明する。

それに対する反応はというと。


■■■



407:底辺冒険者

ワロタwww


408:特定班

くっそwww


409:名無しの冒険者

監視カメラは盲点だったな


410:名無しの冒険者

イッチ、結構抜けてるからなぁ

Wwwwww


411:名無しの冒険者

必死に隠し通せよーwww


412:名無しの冒険者

つーか、その助けた子も結構天然入ってる??


413:名無しの冒険者

天然なのか

鈍感なのか


414:名無しの冒険者

頭いいんだろ?

その子??


415:名無しの冒険者

カマかけだった可能性は?


416:考察厨兼迷探偵

>>415

それは無いだろ

少なくとも、スレ主=黒衣の人にはならん


417:名無しの冒険者

>>416

なんでなんで??


418:考察厨兼迷探偵

スレ主は、学校で最底辺のダメ人間で通ってる

そのダメ人間=自分を助けてくれた人を繋げるとなると、ダメ人間は実は自分たちより超強くて有能ってことを認めなきゃいけない

第一印象からして、空気扱いだったらしいスレ主

でも、実は空気どころか最強だったと知れば、どんな反応になると思う?

魔眼のことは、バレなくても、だ


419:名無しの冒険者

え、そりゃあ

TUEEEEって賞賛されるんじゃ?


420:考察厨兼迷探偵

ふむ、じゃ、当事者であるスレ主はどう思う??


421:魔眼保持者

怖がられて、化け物扱いされるかなぁ


422:考察厨兼迷探偵

だよな


423:底辺冒険者

人は、自分と違うものは受け入れられないように出来てるでござるからなぁ

魔眼を抜きにしても、最底辺だと信じて疑っていなかった存在が、自分たちとは比べ物にならないほど強い存在だったと知れば、群れから弾くのが妥当かと


424:名無しの冒険者

もしくは、それこそ学園上層部みたいに飼おうとするかもな


425:名無しの冒険者

うわぁ、暗っ!


426:考察厨兼迷探偵

とりま、そういうことだ

自分より下だと信じて疑っていなかった存在が、実は自分よりも上でした

そう認めるのって結構難しいもんなんだよ


427:魔眼保持者

よくお分かりでwww


428:考察厨兼迷探偵

おまえ、ここ何処だとおもってる?

冒険者スレとはいえ

底辺人間の巣窟と化してる場所だぞ?


■■■


こんな感じだった。


「知ってるよ」


爪弾きもの、厄介者の巣窟だ。

つまり、同じ穴のなんとやらだ。

だからか、魔眼保持者もそのカテゴリー扱いになっているっぽい。

ユートは呟いて、安価結果を改めて確認した。

次の実況先は、行方不明者が多発しているという、【死の谷デス・バレー】だ。

【そこで、行方不明者を探そうぜ】という書き込みがオマケでついていた。

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