愛しい貴女に首輪を。
ルル
第1話 夕立 沙夜菜 プロローグ
――かつて彼女と一緒にたてた、一方的に破ったはずの誓いが、この狭い空に未だに私を縛り付けている。
東京都内、首都にある高層ビルの1つ。
最上階に位置するこの部屋から見下ろす東京は何もかもが出来のいい作り物に見える。
彼女の眺めている大きな窓から見えるこの景色も、寒さが残るこの季節に温もりをくれる陽だまりも全ては人から与えられたものだ。
今日も変わらずジオラマを照らす太陽を見上げた
手をのばしてもどうせ届きはしないのに、私の中から消えやしないのに、今日も確かにあの子の記憶が優しく私を照らしている。
朝起きて、彼女のことを考えて一日をすごし、彼女の記憶と声を思い出しながらおやすみの挨拶をして眠りにつく。
彼女の幸せを願いながら生きる無色透明な毎日。
そんなふうに日々を消化してこれから先ずっと生きていくのだろうと。既に薄れた記憶が無くならないように祈るしかないのだと。
そう思っていたんだ。
◆
現在時刻は朝の7時30分近く。
ベッドからゴソゴソと起き出した私は朝ごはんを食べるためにゆっくりながらリビングへ起き出した。
少しだけ頭が痛い気がするのは久しぶりにあの日の夢を見たからだ。
――最近は昔に比べて見る頻度も減ってきてたのに。
「
寝起きのせいか久しぶりに呼んだその名前は、少ししゃがれたまま喉から這い出てきた
――
高校1年生から3年生まで一緒のクラスで過ごしたクラスメイトで友達。卒業式の日に告白してしまって振られたまま、親友としての元の関係にも戻れず疎遠になった人。
未だに忘れさせてくれない淡い初恋の人。
太陽みたいな優しくて明るい女の子。
ほどほどに小さな身長とふかふかと気持ちのいい柔らかな手足。料理も裁縫も得意な器用な指先。
笑うと潰れる大きな目と長いまつ毛。薄くて色素の薄い柔らかな唇。幼さの残るかわいい顔立ちと穏やかな性格はお姫様のようで、脊髄を溶かされるような甘い声で名前を呼ばれるのが好きだった。
「さやちゃん!」
そう呼ばれていた記憶はもう既に遠くなり、今ではどんな抑揚だったのかさえ思い出せない。
私は人生の選択肢を間違えてしまった。
取り返しのつかないとても大切な選択肢を。
もしあの時、
――想いを
――泣きながら伝えられた『親友でいたい』という言葉に頷いていれば。
――泣いてる彼女に手を伸ばさなければ。
――あの場から、日南から、逃げなければ。
私は今もあの子の隣で笑えていたのに
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