第39話 一週間の変化

「エリク様、なんだか顔色が良くなってきましたよね」


 とある昼下がりの仕事中。

 執務室にコーヒーを持ってきてくれたコリンヌが、エリクの顔を見るなり言った。


「……やっぱり、コリンヌもそう思う?」

「ええ。ここ最近、すっかり変わったように思います」


 どこか弾んだ調子で言うコリンヌに、エリクの口元が思わず緩む。


「ありがとう。顔色含めて、色々良くなっている実感は、凄くあるよ」


 コーヒーを啜りながら、思い起こす。


 ヒストリカが来てから一週間。

 その中で、エリクはさまざまな変化を感じ取っていた。


 ヒストリカの指導のもと、エスパニア帝国の精神医学の基づいた健康的な生活を送るようになったおかげで不眠が解消。


 日中の活力も段違いに上がって、仕事の効率も目に見えて上昇した。

 そのおかげで納期に忙殺されるような事もなくなり、心にも余裕が出来た。


 結果、落ち込みがちだった気分も向上し、感情も全般的に前向きになっていく。


 ヒストリカが来る前は灰色だった世界が今や、たくさんの彩と輝きを放っているように見えていた。


 これだけでも素晴らしいのだが、目にわかりやすい変化といえばやはり外見面だろう。


 バランスが良く栄養もたっぷりな食事を毎食摂っているおかげで、ガサガサだった肌に潤いが戻り、痩けていた頬や身体に少しずつ肉付きも増してきた。


 しっかりとした睡眠をとっているのもあって、目元のクマもだいぶ改善されている。


 まだまだ身体は細いし顔立ちから病人感は抜けきらないが、以前と比べるとかなりマシになったと言えよう。


「ヒストリカ様のお陰ですね」

「うん、本当に」


 そういえばと、エリクはコリンヌに尋ねる。


「ヒストリカとは、仲良くやれてる?」

「仲良く、ですか?」

「彼女はちょっと物言いが直接的というか、棘がある部分もあるから……何かトラブルとかは、大丈夫かなと……」


 ヒストリカはエリクの健康改善と称して細かい部分の片付けをしたり、調理場に入って料理をしたりと、本来使用人がやるべき部分にも立ち入っていると聞く。

 その中で何かしら軋轢や小競り合いが起きてはいないか、心配して尋ねた次第だ。


 エリクの問いに、コリンヌはにっこりと笑って答えた。


「エリク様がご心配さなるような事は何もございませんよ。最初のうちはヒストリカ様お付きのソフィが間に入っていただきまして、すぐに打ち解ける事ができました」

「ああ、ソフィが」


 確かに、最初はヒストリカではなくソフィを通じて話を通したとなると、この屋敷の使用人とのやりとりもスムーズに行えただろう。


 非常に良い采配だと、エリクは感心した。


「ヒストリカ様は私たち使用人に対して、丁寧に接してくださってます。それに、ヒストリカ様が持っている様々な知識には、私たちも助かっておりまして。この前は首の根元を温めるという処置を教えてもらい、冷えやむくみがかなり改善されました」

「ああ、あれは、とても効くよね」


 嬉しそうに話すコリンヌを見て、使用人たちとの関係も良好そうだとエリクは判断する。

 何はともあれ、ヒストリカのおかげで様々な事が良い方向に向かっているのは揺るぎない事実であった。

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