第37話 ???
(さっきの、何……????????????????????????)
自分の身に起こった事に対して、ヒストリカは頭の中を『???』で覆い尽くした。
エリクに抱き締められたまま眠りに落ちてしまったが、そこまで深いところまで寝入っていなかった。
一度エリクがお手洗いに行って、布団に帰ってくるタイミングでぼんやりと目を覚ました。
何を思ったのか(そもそも何も考えていなかったと思うけど)、再び隣にやってきたエリクに身を寄せて、自分以外の体温にホッとしていると……。
……突然、額にふにっと柔らかい感触が触れて完全に意識が覚醒した。
エリクに口づけをされたと頭が理解した瞬間、全身のありとあらゆる箇所に血が巡ってばちっと両眼が開いた。
その入れ替わりでエリクは本格的に眠りの体勢に入ったらしく、隣で規則正しい寝息を立て始める。
(そんな大胆な事、する人だったの……?)
女性慣れしていなくて、どちらかというと引っ張るより引っ張られるタイプの男性、という印象をエリクには持っていた。
しかし抱擁した時に優しく撫でてくれたり、不意に額に接吻してきたり……。
男性の本能的なものもしっかり持ち合わせていた事に、ヒストリカの認識が追いついていない。
あえて見方を改めるのであれば、外側は草食に見えるのに中身は肉食、と言ったところだろうか。
今日の夕食に出てきたメイン料理を思い出す。
とんだロールキャベツ男だと、ヒストリカはエリクに対する認識を修正した。
(……頬が、熱いわ)
そっと、自分の頬に触れてヒストリカは思う。
心臓もドキドキと普段よりも速い鼓動を奏でている。
心なしか呼吸も浅くなっていた。
自分が思った以上に感情を乱されている事に、ヒストリカは驚く。
普段、起きている時は常に思考を走らせていて、相手が次何をするか何を言うのかを想像しているため、ある程度心の準備というものが出来ている。
でも、不意打ちはいけない。
寝ている時などなんの防御もしていない状態でやられるのは、いくら冰の令嬢ヒストリカとて動揺をせざるを得なかった。
(結局、どういう意図だったの……)
何を思って、エリクは口づけしてきたのか。
自分の感情すら言語化出来ないヒストリカに、他人の気持ちがわかるわけがない。
当のエリクはそんなヒストリカの困惑など梅雨知らず、すやすやと気持ちよさそうにおやすみ中。
起こして意図を聞くわけにもいけないし、明日わざわざ掘り起こして尋ねるような事も出来ないだろう。
結局、エリクの行動の意図はわからずじまいで、ヒストリカはただ悶々とするしかないのであった。
ただひとつ、わかった事があるとすれば。
(エリク様を……魅力的な男性だと認識している……?)
当初はお互いの利益が一致しただけの愛の乏しい結婚だと思っていたが、昨日今日と時間を過ごす中で少しずつその認識が変化していた。
ハリーと婚約している時には無かった感情を、エリクに対して抱きつつあった。
その感情の言語化を試みるが、結局てんで見当もつかなかい。
ヒストリカがその感情の正体に気づくまで、もうしばらく時間がかかりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます