第26話 エリクとおひるごはん

「そういえば、ヒストリカは食べないのか?」


 半分ほどサンドウィッチを食べ進めたタイミングで、エリクが尋ねた。


「私のことはお気になさらず。エリク様が残した分を食べますので」


 ヒストリカが淡々と返すと、エリクは見るからに表情に動揺を浮かべた。


「ああっ、気づかなくてごめんよ。お腹空いただろう?」

「空いていない……と言えば嘘になりますね。私も人間ではあるので、生理現象として空腹感を覚えざるを得ない状態です」

「何だか小難しい言い回しをしているけど、ようはお腹が空いてるって事だよね?」

「人間なので」

「なるほど。ちなみにヒストリカは、サンドウィッチの具材で言うと何が好きなの?」

「私ですか? 私は………………」


 そういえば、サンドウィッチの具の好みなんて考えた事がなかった。


 思考をかなり深いところまで沈める。

 貴族学校を主席で卒業し、ありとあらゆる分野の知識を網羅するヒストリカの頭脳が導き出した具材は──。

 


「…………無難に、卵サンドでしょうか」


 そういえばマヨソースをよく味見していた事を思い出し、自分の好みの味だと導き出した。


「はい、どうぞ」


 ひょい、とエリクがヒストリカに卵サンドを手渡す。

 ヒストリカは目を丸めた。


「え、でも、これはエリク様の……」

「一緒に食べた方が、美味しいだろう?」

「そういうものですか」

「そういうものだよ」


 にこりと笑ってエリクが言う。


 ヒストリカにはエリクの言葉がわからなかった。


 実家でも、貴族学校でも、いつも一人で食べていたから。

 食事とは、黙々と一人でするものだと思っていた。


「……いただきます」


 微かに緊張した面持ちで、はむ……と、卵サンドに口をつけるヒストリカ。


「どう? って、俺が聞くのも変な話か」

「美味しい、ですね」


 ゴロゴロ卵がマヨソースと絡み合って何とも食欲をそそる。

 二口目、三口目と、ヒストリカは卵サンドを頬張った。


「やっぱり、お腹空いてたんだ」


 否定は出来ない。

 朝からエリクを第一優先に考えて行動していたためか、普通にお腹が空いていた。


「残ってるやつで、どれ食べたい?」

「………………ハムチーズを、頂いてもよろしいでしょうか?」

「そんな畏まらなくても」


 苦笑しつつ、エリクはハムチーズサンドをヒストリカに手渡す。

 まるで小鳥に餌付けしているみたいな光景だった。


 ハムチーズサンドを行儀よく両手で持って、はむはむと頬張りながらヒストリカは思う。


(誰かとご飯を食べたのなんて、いつぶりでしょう……)

 

 記憶の限り、すぐには思い出せないくらい久しぶりの事だった。


(確かに……悪くないかもしれないですね)


 誰かと『美味しい』を共有する。


 こんな昼食も悪くないと、ヒストリカは思うのであった。

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