第17話 小鳥のワルツ

 シャルルたちが東部の渓谷から出発した頃、プルミエの街にある小洒落たボロ小屋の寝室のベットの上にメイシーは立っていた。


 メイシーは彼女の尖った耳をナイフのように尖らせ、青い瞳以外の全ての顔のパーツを真っ赤に染め上げて歯を食いしばっていた。


「なんなのかしらっ!あのキザ男!シャルルとか言うキザな名前のキザな男!」


怒り狂ったメイシーは枕に向かって怒鳴りつけていた。


「私に向かって花だなんだと言いながら、結局!あの上から目線の化け物と冒険に出かけたのよ!」


依然として真っ赤な顔をしたまま、返事をしない枕を怒鳴りつけるメイシー。


「こんなに腹が立ったのは産まれて初めて!もう二晩も続けてあいつが鼻を尖らせながら大袈裟に手を振り回す様を夢で見せつけられたわ!どうなってるの!?」


 メイシーはそう叫ぶと、夢をみせた責任を取らせようと枕を殴りつけ、そのままドアをバタンと閉めて出ていった。

メイシーが閉めたドアの衝撃は部屋中に伝わって、枕が悲しそうにベットからずり落ちた。


 メイシーの怒りは、依頼書を確認するため、ギルドに向かってるうちにほんの少しは鎮まってきたようだった。


 しかし、ひびかけたレンガの街並みと所々に隙間の空いた雑踏の中に、見覚えのある金のウェーブヘアを見つけた途端に、あっという間に燃え上がって、爆発した。


「ねぇ!ちょっと待ちなさい!」


 驚いて振り返る3人の顔を順番に見回しながらメイシーはカツカツと音を立てながら詰め寄った。


「どんな美しい小鳥の鳴き声なんだろうと思ってしまいましたよ。メイシーさん、お久しぶりです」


 シャルルがそう言ってメイシーに微笑みかけると、左頬に衝撃が走った。


 メイシーが閃光のようなスピードで、右手を振り抜いてシャルルをぶった。


「花の次は小鳥!?あんたは口先ばっかり!」


 エメリアと、キースは突然の事態にシャルルに駆け寄ろうとしたが、彼が手でそれを止めた。


「僕の中にある何かが、メイシーさんを傷つけてしまいましたか?よく見れば美しい青い目の下に隈が住み着いてしまっていますね。大丈夫ですか?」


「そういうところに文句を言ってんのが分かんないのかしら!?結局あんたは、そこの化け物を選んだんでしょ!私より!この私よりよ!」


 そういってメイシーがもう一度右手を振り上げたときに、キースがおい!と言ってそれを制した。

 キースに睨みつけられたメイシーは、シャルルに聞こえるほど大きな歯軋りをしたあと、ゴンッとシャルルの脛を蹴飛ばした。


「いい気味じゃない!」


 そう叫びながらメイシーは嵐のようにその場を立ち去った。


「シャル君…大丈夫…?」


「…災難だったな」


 脛を押さえてへたり込むシャルルに二人が歩み寄った。

シャルルは小さな深呼吸のあとにスクッと立ち上がって、


「いや…これで彼女が今日は少しでもよく眠れるといいんだけどね」

と微笑んだ。

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