第四章・そして現在。
それもそうだろう、その力は彼女本来のものではない。
治癒能力者から一時的に譲り受けた七曜冠印が付加された治癒能力だった。
『教理別身』による治癒能力の譲渡。
出雲郷八雲岌武千代の肉体を維持させる為に、複数の治癒能力を持つ
仁万咲来は、治癒能力を持つ
「じっくりと、神力を流し込んで、体を治しましょう」
仁万咲来に言われて、春夏秋冬式織は何も言わずに、仁万咲来の動向を見守る。
春夏秋冬式織を抱き枕の様に優しく抱き締めると、仁万咲来の神力が、春夏秋冬式織の傷を修復しに掛かっていた。
「凄い…でも、咲来の姉ちゃんは『砂印』だろ?こんな事出来るのか?」
春夏秋冬式織の質問に、仁万咲来は先程説明した事を、春夏秋冬式織に説明する。
その説明を聞き終わった時、春夏秋冬式織の中に、ある疑問が思い浮かんでいた。
「なんで、咲来の姉ちゃんは直接俺を癒すんだ?普通に、治癒の力を持つ人を使えば良いのに」
手間が掛かるだろうと、春夏秋冬式織は思っていた。
布団の中で、全裸になっている仁万咲来は、恥ずかしそうに表情を赤くして、春夏秋冬式織の首に手を回して、顎下に春夏秋冬式織の頭部を乗せる。
決して、その顔を見せない様にする為の行為だ。
「(他の女に、手を出されたくは無い、と、それを言うのは、師匠としての威厳も無くなってしまう…だけど、式織様は、私が、私の手で、育てたい、それ以外の人間に、この原石を触れさせたくは無い…)」
それを口に出す事は、流石の仁万咲来もしなかった。
だが、強く抱き締めてくるので、春夏秋冬式織は、其処からある程度察していたのかも知れない。
「…そう、言えば。式織様、覚えていますか?」
「?」
仁万咲来は春夏秋冬式織に確認を取る。
「約束、です」
その言葉を聞いて、春夏秋冬式織は、あぁ、と首を縦にして頷いた。
「数日の内で、きちんと成長しましたね、喜ばしい事です、…であれば、私も、式織様の願いを、聞き届けなければなりませんね」
ゆっくりと、体を引き剥がす仁万咲来。
春夏秋冬式織の顔に近づいて、薄桜色の唇が、春夏秋冬式織の額にリップ音を鳴らす。
「約束致します、式織様、この身は、式織様に捧げましょう…無論、大人になるまで覚えていたらの話ですが」
仁万咲来の約束に、春夏秋冬式織は嬉しそうな表情をした。
「本当か?じゃあ、忘れない、家族が増えるんだ。忘れる筈が無いだろ」
春夏秋冬式織の真っすぐな言葉。
小学生であるのに、以前にも増して、仁万咲来にとっては愛おしく感じてしまう。
髪を撫でて、頬を撫でて、胸に手を添えたまま、仁万咲来は再び春夏秋冬式織を抱き締めるのだった。
そして現在。
あれよあれよと成長しきった春夏秋冬式織。
好青年に育ったが故に、自分には勿体ない男だと仁万咲来は密かに思いつつあった。
「(約束を覚えていらっしゃるとは…このまま、独身を貫き、メイドとして殉じるおつもりでしたが…)」
既に三十路、いや、年齢的に言えばまだ二十代。
仁万咲来は二十九歳であるので、まだ二十代と言うには問題ない。
「俺の答えは変わらない、要するにだな。俺は全員を幸せにする、そう約束したから、それを破る様な真似は男としてダメだ」
胸を張って春夏秋冬式織が言う。
その言葉にうんうんと頷く温泉津月妃。
しかし、銀の髪を揺らして、黒周礼紗が首を左右に振る。
「人としてダメだと言ってんだよ、ダメ人間…まさか、お前、他にも婚姻を結んでいる相手とか、居ないだろうな?」
黒周礼紗はこれ以上居ないで欲しいと思いながら、春夏秋冬式織に聞くが、その前に温泉津月妃が割って入る。
「なんでそんなに否定的なのか、意味わかんないんだけど?
温泉津月妃の言葉は正しい。
近年、『末路不和神霊』との闘争によって、多くの
その為、
なので、重婚もまた許諾されている事である。
それが、何故、黒周礼紗が嫌だと言うのかを、温泉津月妃は不思議そうにしていた。
「あの、な…オレは基本的に、そういうのは、不純だと、思ってるんだよ」
「不純?この体の方が不純なんだけど」
黒周礼紗の後ろに回ると、背中を触る、ホックが外れる音が聞こえると共に、黒周礼紗の胸が解放された。
「あ、ちょッ」
「は?…(私より大きいんですけど…)この体で篭絡したら、悩殺出来るでしょ、何がいけないの?」
後ろから手を伸ばして、黒周礼紗の胸を掴む。
黒周礼紗は腕で胸を隠すが、しかし、温泉津月妃の指先が隙間に入り、上下に揺らしていた。
「ぐッ…だ、だって」
春夏秋冬式織の顔を背けながら、黒周礼紗は顔を赤らめつつ、呟いた。
「オレは、他の奴より、粗暴で、そこまで、綺麗じゃない。…そうなると、重婚なんてしたら、オレなんて、構ってくれないだろ…?」
「は?」
温泉津月妃は思わずそう呟いた。
この様な豊満な胸、更に加えて、その美貌は、この国には無いハーフの美しさがある。
であるのに、自分は他の人間よりも劣っていると言うのは、それは傲慢でしかないだろう。
「…ッ?!い、ててッ!!」
温泉津月妃は、怒りのあまり、黒周礼紗の胸を鷲掴みにして、強く握り締めていた。
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