第三章・裸のままで



この世界の龍とは、『ながれる』から転じたもの。

この世の全ての流れるものに対する擬体化でもあるのだ。

単純な身体能力ならば、『流繊躰動・龍』は他の『流繊躰動』よりも上手を取る事が出来る。


「くッ、ざけんじゃねえ、あの野郎と同じ力をォ!!『動郷動動炉鬼あやのさとのとどろき』ィ!!」


依代術儀『動郷動動炉鬼あやのさとのとどろき』。

三刀屋家の血縁者が発現させる『刀印』を、洗練する事で生み出される系譜宝術である。

自らの神力を所持している武器(刀剣類限定)に神力を流し込む事で、それと同等の武器を生成し、自在に操作する事が可能になる術儀。


単純に、手数が倍になる上に、刀剣類である為に簡単に切創を作り出せる。

しかし、この術儀には当然ながら欠点がある。


「死ねェえ!!」


叫び、複数の刀剣を操作して春夏秋冬式織へと刺突させる。

だが、その刀剣の数々は、春夏秋冬式織の皮膚に刺さる事無く弾かれる。

『流繊躰動・龍』は攻防一体の肉体強化術。


肉体に刻まれた六角形の文様は飾りではない。

龍の鱗を模したその模様は、術者の耐久度も相応に上昇させる。

術儀で強化させた刀剣ならばまだしも、術儀で刀剣同等の性能を持つ疑似刀剣では、体を傷つける事すら叶わない。


「ふッ」


春夏秋冬式織は拳を固めると共に、地面を蹴って移動する。

速度は三刀屋剣也ですら認識出来ない程に早く、その拳が三刀屋剣也の顔面に減り込むと共に、アスファルトの地面に向けて叩き付ける。


「ごぼッ!!?」


後頭部を強く打ち付けた三刀屋剣也の意識は一瞬で刈り取られ、捨て台詞も最後に言い残す言葉も無く、気絶するのだった。


相手が動くなかったところを確認したところで春夏秋冬式織は一緒に口元を歪ませた。

これが春夏秋冬式織が戦った中で、正当な勝利であるために春夏秋冬式織は思わず微笑んでしまった。


「流石です、式織様」


そのように言いながらも、彼女の胸の中では安心感がよぎっていた。

それを春夏秋冬式織に悟らせないように安堵の息を漏らしていたがしかしその次の瞬間に春夏秋冬式織は微笑んだまま地面に向かって倒れていく。


仁万咲来は慌てて自らの神力を放出しながら移動すると春夏秋冬式織の体を地面に衝突する寸前で抱きとめた。

どうやら今回の戦いで春夏秋冬式織は全力を出し切ったらしく気絶してしまっているらしい。


だがその表情はどこか誇らしいものであった。

この戦いで春夏秋冬式織は一歩春夏秋冬澱織へ近づいたのだ。

それが嬉しくて嬉しくて仕方がないから、気絶した後もそうやって笑っているのだろう。

春夏秋冬式織の成長を見て仁万咲来もまた微笑んでいた。


「お疲れ様です、式織様、よく頑張りましたね」


労いの言葉をかけると共に春夏秋冬式織の胸元にそっと手を添えた。


「ぐ…がッ、て、てめえ、ッ!」


瀕死状態の三刀屋剣也は、体を起こして春夏秋冬式織と、仁万咲来の方を睨んでいる。


「この、ガキ、ぜ、絶対に、殺して、やるッ!」


神力が寝れない程に、三刀屋剣也は摩耗している。

しかし、春夏秋冬の家系による復讐の意思のみで、此処まで必死になって立っていた。


「…三刀屋剣也、もう十分です、式織様の実力を引き出すに値しました、このまま、式織様の勝利で幕を閉ざすのであれば、私は干渉致しません」


殺そうかと考えたが、この男にそれ程の価値は無い。

何よりも、春夏秋冬式織の成長の為に一躍した、その報酬として、このまま逃がしても良いとすら思っている。


「ざけんな、このクソ女があああッ!ガキ殺してッ、テメエは犯してやるよお!!」


周囲に唾液をまき散らしながら、三刀屋剣也は刀を握り締めて立ち向かう。

その動きは、最早、執念によって突き動かされているに過ぎない。


「…貴方は、間違いを犯しましたね、そのまま、逃げれば良かったものを…」


神力を放出する。

『教理別身』によって、周囲に神力が分泌された。

彼女の神力の属性は『砂印』であり、『教理別身』によって、神力は流砂の様に極小の粒となって周囲にまき散らされた。

当然、迫り来る三刀屋剣也にも、その砂印が付加された神力が接触する。


「『停滞おくれ遅延よどむ』」


術儀を発動させる。

巫覡かんなぎが所持する『術儀』とは、家系が代々継承し続ける拡張能力である。

元々は出雲郷家の開祖が、神霊に与えられし権能、『神在月』から派生した代物であり、神霊に神楽ものがたりを奉納する事で、神の権能を与えられる。

その権能を武術、剣術、呪術、と言った格式を取り付ける事で、儀式として昇華させたのが術儀である。


術儀継承者である仁万咲来には、『砂印』に加えて、『停滞』と『加速』の術儀が加算される。

それによって、『砂の神力』を受けた三刀屋剣也の動きは停滞し始める。


「あ、な…ッ」


行動が鈍くなる三刀屋剣也の元へ歩きながら移動する。

片手に春夏秋冬式織を抱きながら、もう片方の手で、木刀を握り締めると、三刀屋剣也の額に木刀の切っ先を合わせた。


「何よりも、この身は既に、式織様が予約済です、純潔は、貴方如きには捧げられませんね」


最後に、その様な言葉を一方的に告げると、頭蓋が砕ける音が響くのだった。


そして次の日である。

次に春夏秋冬式織が目を覚ました時そこは見慣れた天井だった。

春夏秋冬式織は自分が今眠っていたことを確認すると完全に意識を覚醒させて体を勢いよく飛び上がらせた。


「…痛っ」


体中に激痛が走っていた。

それもそうだろう春夏秋冬式織は自らの限界を超えた戦闘力で戦ったのだ。

体中は疲弊しきっていてその疲れは一日中眠ったとしても消えることはないだろう。

それでも春夏秋冬式織の中には確かな手応えというものがあった。

また一歩春夏秋冬澱織に近づいたという実感だ。

自らの両手を天井に向けて伸ばし自らの手のひらを確認する。

その遠さをしたところで春夏秋冬式織は自分が行った新しい力を反復させる。


「龍の力…オリオリと同じだ…へへ」


そうすると己の中から自然と喜びが膨れ上がってきた。


「失礼します」


そのような声が聞こえてくるので春夏秋冬式織は顔を襖の方へと向けた。

そこには春夏秋冬式織の師匠でもある程度が正座をしながら部屋の中へと入ってきた。

春夏秋冬式織が目覚めていることを確認した彼女はよかったと顔をほころばせて近づいてくる。


「式織様、お体は如何ですか?」


春夏秋冬式織の体調を心配して聞いてくる仁万咲来。


「あー、…うん、大丈夫。体中が痛いけど」


と、その様に春夏秋冬式織が言う。

それを聞いた仁万咲来は、そうだろうと思った。

だから、彼の肉体の痛みを消す為に、春夏秋冬式織に近寄ると。


「それでは、治療を…」


そう言って。

仁万咲来は、自らの衣服を脱ぎ始めて、真っ裸になっていき、生まれたままの姿になっていた。

体中が痛くて、思うように動かせない春夏秋冬式織だったが、彼女の素肌を見て口を出さずにはいられなかった。


「なんで、脱いでるんだ?」


その言葉に対して。仁万咲来は平然とした様子で答える。


「これが、治療になるからですよ、式織様」


そう言って、彼女は自らの体内から神力を放出する。

それは、何時もの彼女の神力とは違い、何処か、優しい雰囲気を感じとる神力だった。
















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