幼少期の頃にいっぱいフラグを建てる主人公、好感度上限振り切ったヒロインたちに迫られる。和風バトル、ヤンデレ、ハーレム、現代、和風、学校、現代ファンタジー

三流木青二斎無一門

序章・月妃は無慈悲な夜の女王①

幼き子の話を始める。

これは、ある一人の少年と、その少年に魅了された少女たちの物語。


その始まりは十数年前へと遡る。

小学校三年生。

温泉津ゆのつ月妃つきは豊満だった。

胸だけでは無く、体全体である。

甘やかされた彼女は太っていた。

小学生では良くある、ふくよかな子である。

環境が良すぎて、体が大きくなった典型だ。

大人から見れば可愛らしいものであるが。

子供から見ればイジメの対象でもあった。


「やーいでぶ」「つきみだんごが来たぞ!」


校庭。

その様な言葉を大きくして、男子生徒が彼女を虐める。

温泉津月妃は何も言わず、ただお気に入りの白い服を握り締めて耐え忍ぶ。

喧嘩になれば、勝つのはまず、間違いなく彼女だろう。

だが、戦ってはならない。

彼女は能力者の家系、その力を使う事は禁止とされていた。

だから、男子生徒に手を出す事は出来ないから、ただ我慢する他無かった。


「あ、泣いてるぞこいつ」「泣いたって許されるかよデブッ」「ぎゃははッ!」


純真無垢とは程遠い邪悪極まる無邪気な子供の邪気。

何も言わずに我慢する彼女は、しかし限界と言うものはある。

このまま、手を出してしまえばどれ程楽になるか。

このガキたちを、殺してしまおうかとすら思ったが。


「なにしてんだよお前ら」


ランドセルを背負う、一人の少年が玄関から出ていく。

春夏秋冬ひととせ式織しきおりだ。

彼の登場によって、いじめっ子らは声を荒げる。


「なんだよ、おまえには関係ないだろ!!」


そう言われたが、春夏秋冬式織はさも当然の様に温泉津月妃の前に立つと言う。


「関係ある。こいつの家に預かられてんだ、俺」


同じ宿の下。

共に過ごした仲間であるからこそ、見過ごせないのだろう。

それを言われた小さな悪魔たちは笑みを浮かべる。


「なんだよ、じゃあ結婚してんのか?」「まんじゅうが結婚したんだってよ」「結婚って事は好きなんだろ?付き合ってるんだ!」


結婚、結婚、と手を叩きながら囃し立てる悪ガキたち。


「ちがッ」


温泉津月妃は声を上げた。

春夏秋冬はイジメには関係ない事だ。

だから、彼が笑われる様な真似はしたくないと思っての事だろうが。

春夏秋冬式織は温泉津月妃の手を握った。


「あぁ好きだ。結婚したいくらいだ」


怒りもせず、恥ずかしくも無く、春夏秋冬式織はそういう。

真剣な顔をしてそう告げる彼に、小学生は声すら出せなかった。

そして、春夏秋冬式織は彼女の手を掴んだまま、離す事無く歩き出す。


後ろからは我に返った小学生たちが茶化してくるが、春夏秋冬式織は、決してその手を離す事は無かった。

帰路を歩く二人、ぽつりと、温泉津月妃は言う。


「ねえ、なんであんな事言ったの?」


そう聞かれた春夏秋冬式織は振り向く事無く言う。


「見たいテレビがあったから、早く帰れる様にな」


彼女を連れて帰らなければ、色々と面倒だと思ったのだろうか。

それは決して、自分の為に言ってくれた言葉ではないと思い、温泉津月妃は残念そうにした。


「ふぅん…別に、私も、結婚なんて、したくなかったし…」


不貞腐れる様に温泉津月妃は言う。


「そうか、でも…あ」


あ、と、春夏秋冬式織は呟いた。

その声に反応して、温泉津月妃にも怖気の様なものを感じ得る。


「あ…これ」


途端に、温泉津月妃は内気となりつつある。

温泉津月妃と、春夏秋冬式織、二人は、この世に見えないものが見える。

それは、妖怪と言うよりかは神々しく、幽霊と言うには人間離れをしている。


電信柱の近く、黒い靄の様なものが人型の形を成して、電信柱と壁の隙間から春夏秋冬式織と温泉津月妃を見ている。

未だ、特別な能力を持たない温泉津月妃は、その悪性に対して恐怖を覚えていた。


「やだ…怖い、かみさま、見てる…」


神様。

その言葉は、ある意味間違いではない。

この地、高天原市。此処には、神が宿る地であるとされている。

多くの神がこの地へ集い、神の国へと続く橋となるのだが、稀に、悪業を尽くし神格を失った神だったものが、人の地に住まう。


高天原市は、橋に近い為に、そういった零落した神が多く存在した。


「目を瞑ってろ、すぐに、終わらせてやる」


春夏秋冬式織はそう言うと共に、温泉津月妃の手を離す。

その場に縮こまる温泉津月妃。

まるでかくれんぼをする様に、膝を抱え込んで目を両手で覆っていた。

音が聞こえてくる、温泉津月妃の耳の中へと、何か、弾ける様な音が響いた。

それが言った、なんであるかは、温泉津月妃も未だ良く分かっていない。

それでも、目を開けた時、其処には、こちらに手を伸ばしている春夏秋冬式織の姿があった。


「終わったぞ、早く、帰ろう」


春夏秋冬式織の言葉に、温泉津月妃は頷くと、再びその手を取った。

早歩きで進み、温泉津月妃は、自然とその後ろ姿に見とれていた。

けれど、彼女の淡い恋心は既に終わっている、春夏秋冬式織は結婚すると言う言葉を嘘偽りだと言った。

その時点で、温泉津月妃に恋慕が無い事は分かっていた。

完全に独り相撲、報われない恋をしているに過ぎないのだ。

だが、春夏秋冬式織は、ふと思いつく様に足を止めて、振り向くと共に温泉津月妃に向けて、先程言いかけた言葉を口にした。


「でも好きだぞ」


当たり前の様に、春夏秋冬式織は言った。

そして再び歩き出したので、温泉津月妃は一緒に歩き出す。


「…うそ、だって私、で…ぽっちゃりしてるし」


「?…それが関係あるのか、お前の良い所は、体だけじゃないだろ」


近くに居たからこそ分かる、と言った春夏秋冬式織の言葉に、温泉津月妃は俯きながら微かに笑っていた。

彼にそう言われて、どうやら嬉しく思ったらしい。


「…ふーん!、じゃあ結婚してあげる、シキ、嬉しいでしょ?」


何時もの調子に戻った温泉津月妃は、胸を張って彼に言う。


「あぁ、約束だな」


軽々しく、そう約束を交わす春夏秋冬式織。

その言葉に、温泉津月妃は嬉しく思っていた。


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