図書館、閉館日のある暖かな日に

高柳孝吉

図書館、閉館日のある暖かな日に

 ある暖かな月曜日。いつもと同じ図書館にいつもと同じ時間、今日はDVDを返しに行った。言わずと知れた黒澤明監督の名作「七人の侍」だ。もう何度見返した事だろう。しかし今日は図書館の休館日だ。残念ながら図書館通いの理由の半分を占める可愛らしい図書館司書さんに会えることは無い。僕は自転車を停め、返却ボックスに名残惜しそうにDVDを落とし込んだ。また借りに来るからね。ーーと、DVDから手を離したその刹那DVDのタイトルが目に入った。

「巨乳令嬢欲しがる」。

 TSUTAYAで借りたDVDだった。あの図書館司書さんの温かい笑顔や三船敏郎の見事な剣さばき、そしてサングラス越しに想像出来た黒澤明監督の厳しい眼差し等が走馬灯のように目の前を駆け巡っては消えて行った。

 次の瞬間、ごと、というDVDの落下した鈍い音が、長かった図書館人生と淡い初恋の終止符を告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

図書館、閉館日のある暖かな日に 高柳孝吉 @1968125takeshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ