生きて逝かして、私は死ぬ

夏凪碧

第1話 楽になりたい

「何か辛いことでもあるの?」


 空っぽの教室でカウンセリングの先生が問いかけてくる


「どうでしょう…人並みにはしていたと思います」


 教室が橙に染まる

 眩しい…カーテンくらい閉めて欲しい


「どうしてそんなことをしようとするの?痛くて苦しいだけじゃない」


 そんなの決まってるじゃない…

 何故みんなそれを不思議そうに聞くのだろう

 死ぬ気で頑張ればなんとかなんとでもなるだろう…

 選択肢はいくらでもあったしチャンスもあったろう… 

 一生懸命やってる人から見たら私は怠けて見えるだろう…

 勝手に視野を狭めて正常な判断を出来ない状態に自分から追い込んでいるように見えるだろう

 

 でも、そうじゃない

 

 私は常に最適解を選び続けている

 何一つおかしくない単純なことだ

 だから、これから来る幸せよりも…苦痛に耐えるよりも…

 今終わらせるのが1番『楽』だ


  ◇◆◇


「死んでもあんま変わんないな〜」


 気がついたらここに並んでいた

 周りを見渡してもどこまでも続く白い景色そこに木や草が所々に生えている

 そこに1列に並んで何処かに行くのを待ってる

 あの日私は屋上から飛び降りた…そして今ここにいる

 ここが『あの世』ってこと?にしても頭のこれなに?お化けとかがつけてるアレじゃん

 体にあった痣や傷も無くなってるし

 それは魂だけがここに来たから?


「どうぞ、整理券です」 

 

 前から誰か来る。声的に女性だうか、何か配ってる?


「どうぞ、整理券です。この先は4番ゲートに進んでください」


 黒のコートに白のポンチョのようなものを羽織っている


「あの、すみません。これっ…」


「ぴゃっ!」


 手に持っていた書類がバサバサと落ちる


「すみません。話しかけてくる方は少ないもので」


「いえ、こちらこそすみません。それでこの紙ってなんなんですか?」


 渡された整理券とやらをヒラヒラさせる


「それは蒸留所の番号ですね。この列の先頭にあってそこで浄化されてから転生するんです。あなたの場合は6番ですね」


 蒸留所、浄化、転生…聞きなれない単語が並んでくるがそれより問題なことがある


「先頭まではどのくらいかかりますか?」


「だいたいは1年〜2年くらいですね」


「蒸留所に行ったらまた現世に戻るんですか?」


「そうなります」


「……………」


「……………」


 楽になるためにここに来たってのに…また、現世に戻らないと行けないの…


「列から抜けます。そして先頭に行きます」


「あ。ちょ、え!勝手に列を抜けないでください!署長に怒られちゃいます!」


「ならここの署長に会って話を聞いてもらいます」


 職員はやってしまったという顔をしたが署長は今忙しいだとか、ここは広いから迷子になるとか私が怒られるだとかそんな言い訳じみたことを私に言ってきた


「なら私は1人で行くので大丈夫です。幸いにもこの列は蒸留所に向かっているのでしょう。ならこのなんも無い世界ではそこに署長がいるはずです」


 あの世に来ても死ねないのなら私はここで死ぬ。そのためにもまずは署長に会わなければならない

 

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