レイニーブレイニー

物部がたり

レイニーブレイニー

「朝から昼過ぎにかけて、明日は雨が降るでしょう。外出される際は雨に当たらないよう厳重にご注意ください」

 と昨日、お天気キャスターがネガティブ注意報を喚起していた。

 だが、れいは注意喚起を無視して、傘も雨合羽も持たず外出していた。傘・雨合羽警察の市民は「なあにあの人は、傘も合羽も使ってないじゃない……」「ネガティブを移されるから近寄らないでほしいよな」と言わんばかりに奇異の目でれいを見ていた。


 どうして、たかが雨くらいでそれほど注意しなければならないのか不思議に思うだろう。それは近年の研究で、雨には幸福ホルモンであるセロトニンを抑制する物質が含まれていることが発見されたからだ。

 雨の日に憂鬱になったり、取り返しのつかない過ちが増えるのも、雨に含まれるセロトニン抑制物質が関係しているからである。


 どうして日本人は病みやすいのか? それは世界と比較しても日本は降水量が高い国だから、となる。セロトニン分泌抑制物質を含んだ雨は、〈レイニーブレイニー〉と命名され、レイニーブレイニーが降る日は環境省がネガティブ注意報を発令し注意喚起するようになった。

 雨の日は不要不急の外出を控えること、できうる限り雨に当たらないこと、もしレイニーブレイニーに感染した人は人との接触を控えること、などである。万が一、雨に感染してしまったら、すぐに雨を洗い流し、日光浴や、セロトニン分泌量を増やすサプリ、酷いときはセロトニン分泌効果のある抗うつ剤を飲用することが推奨されている。


 人々は雨の日の外出をできうる限り控えるようになり、ただでさえ嫌われていた雨は「雨なんてなくなればいいのに」と親の仇のように憎悪されるものとなった。

 そして、とばっちりを受ける人々も現れた。いわゆる雨女・雨男と呼ばれる人々である。雨女・雨男はことごとく嫌われ、雨女・雨男差別に繋がった。

 国家は雨女・雨男差別を厳重に取り締まっているものの、一度根付いた差別の根はそう簡単には根絶できなかった。そして、れいも恥じることないれっきとした雨男であった。

 降水確率関係なく、れいが歩くところに雨が降る。

 今も雨がザアザア降っている。


 だが、れいには関係なかった。

「待った?」

「いや、今来たところだよ」

 なぜなられいの彼女は国家公認の晴れ女だったからだ。雨体質の人がいれば、晴れ体質の人がいるのが道理。レイニーブレイニー発見後、国家は晴れ体質・雨体質の研究に巨額の資金を投じ、晴れ体質・雨体質の存在が科学的に証明された。

 

 以来、晴れ体質の人間は、雨が降っては困る日を晴れにしたり、うつ病などの精神病の治療に多大な貢献し、様々な用途で重宝されるようになった。

 そして、れいは国家公認の雨男であり、彼女は国家公認最強の晴れ女であった。彼女の前では並みの雨男は無力化される。

「それじゃあ行きましょうか」

「ああ」

 駅から出ると、雨はすっかり止んでいた――。

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