体験談2ー大江元治氏ー

 そうだねぇ。そう言えばそんな経験を最近しましたよ。

 あれはね、知人に会う為に山口県の下関に行った時です。

 知人と会うのは3年ぶりでね。ほら、例のウイルスの所為でなかなか会えなかったんですよ。

 僕は飛行機が苦手でね。新幹線で向かったんです。

 新下関駅の南口で知人と待ち合わせていました。

 定刻通りに駅に到着して、知人と合流しました。

 知人の車に乗り込んで彼の家に向かいましてね。ああ、彼の家というのが壇ノ浦の近くでしてね。次の日に唐戸市場に行こうとか、そんな話をしていました。

 知人の家でコーヒーを飲みながら近況を報告しあって、いつしか夜になっていました。

 知人は食事の準備をしにキッチンに行きました。僕は移動で疲れていたので少し椅子に座ったまま眠ったのです。

 目を覚ますと確かに知人の家でした。しかし、何か違和感を感じて窓から外を見ましたら、外で火が灯っているのです。あれは松明でした。ええ、間違いないです。

 遠かったし、暗かったから見えづらかったですが、甲冑を着込んだ男たちが戦っていた。

 そういえば、開門橋がなかったし、知人の家以外の民家が消えていたのです。

 その光景に混乱していましたら、窓の外に手を振る影がありました。

 暗がりでも確かにそこに黒い影がいるとわかったのです。

 影はこちらに手を振っていた。ですから私も振り返したのです。

 そうしたら背後から知人の呼ぶ声が聞こえて、振り返ると、夕食をテーブルに並べた知人が不思議そうな顔でこちらを見ていました。

 僕は咄嗟に綺麗な景色だなと思って見ていたと笑顔で言って何事もなかったように振る舞いました。

 しかし、あれは、夢でも幻でもなかったと思うのです。根拠はありませんが、そう思うのです。

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