閑話 年下の素敵な子

 忍野ゆえ視点



 私が、まことを意識し始めたのは私が中3で、まことやたえが中1の頃だったと思う。


 高校受験で、ちょうど思春期による反抗期と進路が決まらずにイライラしていた頃だった。


「たえとまこと、お菓子取りに来て」今日は、と言うか今日も、私やたえの幼馴染のまことが家に遊びに来ていた。まぁ可愛い妹の未来の彼氏候補のまことが来てるんだ、オヤツの準備位しないとね。ポテチやチョコスティックに、えーと、それから……。


 気がつけば、大盤振る舞いお盆から溢れる位のお菓子の山に、どうしようかと思ったけど、戻すのも面倒臭くなって、私も一緒に食べようかなって。


「問題は、この階段だよね?」お菓子の山とジュースのコップがのったお盆を持って上がるのは大変そうだった。


「まぁ、何とかなるでしょ」こんな時にも私の性格が出てしまった。何かあった時、私は戻らず前に進む事を選択してしまう。


 ヨイショ、ヨイショとゆっくり階段を登って行く。


 そして階段も後半分位に差し掛かった頃、これなら行けそうと安堵し始めてスピードを上げたのが拙かった。


 お盆のコップがグラつくのを感じて、慌ててバランスを取ろうとした瞬間、階段を一段踏みそこねて、拙い!!と思った時には体が後ろに倒れかかってしまう。


 駄目だ、転んでしまう!!半分諦めてしまった時だった。


「危ないっ!!」そう叫ぶ声がしてダンダンッと後ろから音がして私は温かい物に包まれた。


 その時の私は、諦めきって目を瞑って頭の中で、あぁお菓子どうしよう?片付け大変そうだ?コップ割れたらママに怒られるかな?もしかしたら怪我するかも?受験もあるんだし利き腕だけは守らないと!!なんて、今考えたら馬鹿みたいな事を考えて、その時が来るのを待っていた。後、何か分からないけど、後ろ温かい?


「あれ?」ゆっくり目を開けると私はまだ無事に階段で転ばずにすんでいた。と言うより誰かに後ろから抱き抱えられていた。


「危ないですよ、ゆえ姉さん」声の主の方を私は見ると器用に右手でお盆、左手で私を抱えた、まことがいた。


「まこと〜」安心した私は、まことに抱きついて泣き出してしまった。


「アワワ、ゆえ姉さん!!とにかく階段を上がっちゃいましょう?」


 階段を上がりきって、一息ついた私達はホッとして廊下に座り込んでしまう。落ち着くと、今の状況が恥ずかしくなって来て顔や耳まで赤くしてしまう。


「無事で良かった」そう言って、優しく笑うまこと。もしかしたら私は初めて、まことの顔をマジマジと見てしまったのかもしれない。身長も中学に入って順調に伸び始めて、もう私よりも高くなっていてサッカーをやっているせいか胸板も厚く痩せ型だけど、結構ガッチリしている。


 少しくせ毛だけどサラサラな髪、二重で切れ長の目が優しく私を見つめている。


 特にアイドルやイケメン芸能人に押しは無いけれど、今なら何となく、そう言った人達を好きになる人の気持ちも分かる気がした。


 この子、外見も中身も行動も大概、格好良過ぎだろ?


「たえが惚れる訳だわ」「えっ?何か?」「イヤイヤ何でもないよ、有難うねって言っただけ」拙い拙い、それはトップシークレットだった。たえにバレたら口を聞いて貰えないレベルだ。


「そっか、でも本当に大丈夫?痛い所無い?」優しいなぁこの子は……。


「どうしたの?大きな音したけど!?」部屋の扉が開いて慌てた、たえの声が聞こえる。


「何でも無いよ、実は……」まことが心配そうなたえに説明を始める。


 私は、そんな彼の横顔を眺めながら頬が赤くなって行くのを感じていた。


 私は、始めて自分の耳が赤くなっていく音を聞いたのかも知れない。


 ねぇ、王子様って本当にいるんだね?しかも、こんなに身近に。


 少し浮かれていた私は、そんな私を不安気に見つめる視線がある事に全然気が付いていなかった。


 そうコレが私がまことを意識し始めた最初の出来事。多分、まことはもう覚えていないだろう話し。そして、そんな私を見逃さなかった子がいた。


 その晩、ボーッとして机の上で頬杖をついていた私に、ベッドの上でクッションを抱きしめた、たえは言った。


「……お姉ちゃん、まことの事どう思っている?」


「何を急に言うのよ?」ガタンと大きな音を立てて、私は机の椅子から立ち上がってしまう。


 拙い、これじゃあ意識してるの、まる分かりだ。


「お姉ちゃん、まことの事好きになってるでしょ?」


「何言ってるのよあんた!!相手はまことよ!?二つも年下よ!!」拙い拙い、こんなに動揺してちゃ、たえにバレちゃう!!


 でも、誤魔化そうとすればする程焦ってしまって……。


「でも、お姉ちゃん好きになってるじゃん!!」もはや、疑問とかじゃなく、そう言うモノとして私に話しかけてくるたえ。


「……だったらなによ?」しばらく考えて、不貞腐れる様に呟く私。


 だって好きになっちゃったんだ、どうしようも無いじゃない!!でも……。


「どう見たってあんた達相思相愛でしょう!?」


 その言葉に、たえはジワッと目に涙を溜めて泣き出してしまう。


「何?どうしたのよ!?」いきなり泣き出すたえに慌てる私。


 意味が分からない、思春期なの!?












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あおしの 幸せの形って何ですか? まちゅ~@英雄属性 @machu009

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