ありがとうを何度でも15

「何でアッサリと……」唐突の展開に驚くアカギ兄さんと唯一さん。


「だって、まことに怒られたく無いしー」「まこと怒ると口聞いてくれないもん」二人の言い分に何となく、子供の頃、良く二人のケンカの仲裁をした事を思い出してしまった。


「まっまぁ、仲良くしてくれるのなら、それで良いです」何となく、疲れてしまった。


「女性同士のケンカを止めるなんて……」「スゲーなまこと」何言ってんの?普通でしょ?

「何言ってるんですか?二人とも、優しい女性ですよ?」当たり前の対応をしただけと不思議そうな顔をするけど、


「バッカあいつら鬼だぞ!!俺ならケンカしてるの見たら、半日位はずらかる」


「女性同士の争いは、男には関与出来ないものなんですよ!?」


 二人が、勢い良く俺に言って来るのを見て、

「誰が鬼よ!?まぁお姉ちゃんは、はんにゃだけど!?」

「今、はんにゃって言った!?知ってるまこと、たえって、ケンカして怒ってる時ね!!秋田のナマハゲ見たいに歯を剥き出して怒るんだよ!!」

「ナマハゲ!?ナマハゲって言った!?お姉ちゃん酷い!!」

「そっちが先に、はんにゃとか言ったんだからね!!」俺の足の間のたえと、俺の目の前に立つ、ゆえ姉さんが顔を付き合わず様に睨み会う。


「やっと、静かに仲良くなったのにー!!」俺が頭を抱えていると、


「ほら見ろ、女は怖い」「それに、関しては同感ですね」納得し合う野郎二人に、


「あんたらが、混ぜ返すからだろうが!!」ついつい大声をあげてしまった。


「大体、男ってのは、皆馬鹿ばっかりなんだから、まこと以外」


「本当、どうしようも無くて、エッチで馬鹿見たいな事しか考えて無いんだから!!まこと以外。あっ、まこともエッチだけどさぁ」


「ちょっと待て、何でまことは良いんだよ!?」


「うん、まことは良いのよ、可愛いから」「そうそう、まことは良いの。分かってるね、お姉ちゃん」「だって、私の大切な妹の婚約者なんですものー!!」「「ねー!!」」何故かケンカしていたハズの二人が仲良く、「ねー!!」と言い合うのを見て、「何なんでしょう、この理不尽さは」唯一さんが不満そうな顔をする。


「もう良いです、混ぜ返さないで……」異常に疲れてしまった……。


「まぁ、色々ありましたが、聞いてもらえますか?」俺も疲れたけど、皆も疲れたらしい。

 唯一さんは、やっと話す事が出来そうだ。


「さっさと始めろよ」アカギ兄さんの聞く気が無さそうな声に、少しムッとした顔をしながら、ゴホンと咳払いを一つ、唯一さんは話し始めた。


「何から話すべきなのか……」唯一さんは、一つ一つ言葉を選びながら話す。


「ゆえさんから、懐妊の報告を受けた日というかその一週間程前に私にとってショックな出来事があったんだ」何か聞くべきだろうか?俺は少し考えて止めた。唯一さんの考え込む様な顔に俺は何かを聞ける様な気にならなかったのだ。


「私の職業は知っての通り医者だ。つまり、病や怪我を治す職業です。そして私にも受け持っている患者がいる」察しの良い、たえは何かを考えたらしい。どうしようと言った顔をして振り返って俺の顔を覗き込む。


 俺は軽く微笑んで、続きを聞こうと、たえの頭を優しく撫でた。


「その患者は私が2年程から受け持っていてね。その彼が死んだ。末期ガンだった」


「そっか……」一言だけ、ゆえ姉さんが言った。


 唯一さんが悲しそうに微笑んで続ける。


「彼は、 生きたかった。愛すべき家族もいて、守りたい物もあって、やりたい事もあったんだ……私は、力になれなかった。」悔しそうな顔をして叫ぶ。


「私は、彼のしたい事を何一つ叶える事が出来なかったんだ!!」そう言うと激情のまま、自分の右手をコンクリートの壁にぶつけようとする。


 その手はコンクリートを殴った時の鈍い音はたてずにアカギ兄さんのゴツい腕に掴まれていた。しかも、怪我をした方の手で。

「止めとけ、それをやると痛いし、皆に馬鹿にされるぞ」フッと笑いながら首を振り、肩をすくめる。


「その人、最後に何か言ってなかった?」ゆえ姉さんは、優しい声で囁く。


「あぁ、今でも思い出すよ。ありがとうだってさ」唯一さんのメガネの奥に光る物が見える。

「何も出来なかったのに!!命を助ける事も!!息子さんの成人した姿を見せる事も!!家族で旅行に行かせてやる事も!!」唯一さんは、泣いていた。大粒の涙を出して。

「僕は知っていたんだ!!彼がやりたい事ノートを書いていて、そこには沢山のやりたい事が書いてあったんだ!!つい盗み見てしまったそのノートには、痛い、苦しい、辛い、何で自分ばかり、息子さんや奥さんを抱き締めたい、体が良くなったら家族で旅行に行きたい、でも、自分は良くなる事は無い。自分の命はもう残り少ない。死にたく無い死にたく無い死にたく無い死にたく……無いって」


 唯一さんの苦しみが慟哭が哀しみが俺達の胸を刺した。


「何も出来なかった、そんな自分……そんな自分が人の親になる資格があるのだろうか!?僕には、そんな自信が無いんだ……」


 親になる資格……か。





















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