閑話 白い日に舞う花びら《中編》

 俺達を乗せた車が海洋公園の駐車場に入って行く。もうすでに何台もの車が駐車場に止められていて、公園の中に入っていくカップルや家族連れの姿も見られた。


「たえ、着いたよ」何処なんだろうとキョロキョロ見渡すたえに微笑みながら、俺は降りる準備を始める。


「まこと、ここどこなの?」降りる準備を始める俺を見て少し不安げな様子を見せるたえ。


「伊豆の海洋公園だよ」イタズラっぽく笑う

 に、たえは少しムッとした顔で、

「入り口に書いてあったし、ナビにも書いてあるから分かりますー!!」


「あぁ、中に見せたい物があるんだ」言葉少なく俺は車から出ようとする。たえには、言葉で伝えるより、実際に見て欲しいんだ。


「うん……」何となく納得していない風のたえの肩を軽く叩いて外に出る様に促す。


 公園の方が明るくなっているのが、見えた。


「あの、明るい方?」「そうだと思う」外は、まだ寒い様だ。少し寒そうなたえの肩に俺は持って来ていたグレーのジャケットを羽織らせる。

「ありがと、あっまことの匂いがする」襟口をつまんで匂いを嗅ぐたえに、少し苦笑いをしつつ、

「俺の匂いってなんなの?臭いの?」

「違うの!!まことの匂いは、まことの匂いなんだよ!!」少し怒った風に言うたえ。


「現国の先生が要領掴めないなー?」肩をすくめて、茶化すと。


「まことの匂いはまことの匂いなんだよ」ブカブカなジャケットの袖口から手は出さずに、両手の袖口を口元に当てて、

「安心する匂いなんだよ」うっとりする様に匂いを嗅いでいる。


「そうか?よく分からないけど、たえが良いなら俺は、それで良いよ」何となく少し恥ずかしくなって、たえの肩を抱いて「行こうか?」と公園に向かって歩きだした。


 公園の中に向かうと、たえの目が見開いて行くのが分かり、その様子に俺は笑顔になる。


「まこと!!あれ、桜ね!?綺麗……」淡い色のライトに照らされた桜が公園へ向かう道の両側に植えられていて、今、まさに満開になっていた。


「でも、まだ桜には早いんじゃないの?」


「この桜はね……」説明しようとする俺の言葉を遮る様に、たえは嬉しそうに、


「あっ河津桜ね!?」たえの嬉しそうな満面の笑顔に、俺も嬉しくなって、「正解」と微笑む。 河津桜は早咲きの桜、本当なら、時期は終わっている頃なのだけど。


「でも、凄いな……満開なのね?」「あぁ、いつもの年は、2月から3月上旬まで位が見頃らしいんだけど、ネットの桜情報を見たら寒さのせいか例年よりも開花が遅れて昨日から今日に掛けてこの辺が、桜が満開になるって書いてあったからさ」


「探してくれたんだ?」イタズラそうに俺の顔を覗き込む、たえ。


「まぁな」少し恥ずかしくなって顔を逸らすと、たえは俺の右腕にしがみついて、一言「ありがと」と言った。

 しばらく街道を行くと人が増えてきて、老夫婦が仲良さそうに桜を見てはスマホで写真を撮ってた。中々上手く撮れない様で、「もし、よろしければ俺が撮りましょうか?」と、つい余計なお節介をしてしまう。

 喜ぶ老夫婦に「では、お二人とももう少しくっついて頂けますか?」と促す。老夫婦は少し恥ずかしそうにしながら体を寄り添う。

 たえが俺の隣に来て、「流石まこと、優しいじゃない」「バカそんなんじゃねぇよ」少し照れながら写真を撮る。


 終わった後、老夫婦に本当に嬉しそうに礼を言われて、逆にうれしくなってしまった。

 撮り終えた後、素敵な奥さんですねと言われて、嬉しくも少し恥ずかしくもあって……、


 老夫婦と別れ、二人また歩きだす。少しづつ舞う淡いピンクの花がライトアップされた光に反射して、綺麗な影を作っている。


 道の開けた先の公園には、更に沢山の桜が俺達を待っていて、その美しさに俺達はしばらく足を止めて、魅入ってしまう。


「……凄いね」「……凄いな」それ以上、何も言えない。桜の桃色が光に照らされて……幻想的で……、グーッとたえのお腹の音が鳴るまで二人動けなくなっていた。


「あー、もう聞かないでよー」恥ずかしそうに顔を赤くするたえ。

 たえには、悪いけど少し笑いが止まらずクスクス笑ってしまう。


 可愛らしいなぁ、もう。


「ごめん、ごめん、もう8時過ぎてるもんな」辺りを見渡せば、もう少し行った先に露店があるようだ。

「たえ?」そちらに指差すと、たえが嬉しそうに「うん、行こう!!」と俺の腕を取る。そういう時、幼馴染みは話が早いな、

「たえは何食べる?」「美味しいもの」「なんだそりゃ」「見ないと分からないもん」「そりゃそうか?じゃあ、今日は俺がおごるから旨い物食べようぜ!!」お互いに笑いながら露店を回る。そろそろ遅い時間のせいか、値引きをしている所も多そうだ。


 たえが、最初に買ったのはベビーカステラ、いきなりデザートかよ、とか思ったけど、何となく気がして笑ってしまった。

 俺はソースの匂いが堪らない、たこ焼きと牛肉がいっぱい挟まったケバブサンド、後で、たえの一口ちょうだい攻撃が来そうだな。ちなみにケバブは辛口ガーリックソースもたっぷりだ。


 続いてたえが、韓国風チーズアメリカンドッグのチーズハットグとスパイシー唐揚げ。


 凄い良い匂いだ。後で一口攻撃の餌食にしてくれよう。


 最後に、イカ焼きとドリンク(俺がコーラでたえがビールな)を買ってコンプリート。


「最初のベビーカステラの乙女感は何処へ行った?」


「だって、お腹空いて屋台の匂いに負けて、屋台のお兄さんが、綺麗なお姉さんサービスするよとか言うから……」ちなみにサービスするよの次の言葉が、お姉ちゃん俺と付き合わない?ばかりだったから、少し睨みを入れたのは言うまでも無かった。


 彼氏の前でナンパしてんじゃねぇよ。











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