鍵を開けよう4

 ピロリロリーピロリロリー……と言うスマホのアラーム音で目を覚ます。


 ……あれ?昨日はアラームかけたかな?


 あの後、盛り上がった俺達は……まぁそれは置いておくとして。


 ピロリロリー……あっこれ電話だわ!!


 慌てて、スマホを手に取り電話に出る。


『おぅ、ようやく出たか?まこと』確認しないで出たので一瞬、誰だか分からなかった。この声!?


「何だよ楠木か?久しぶりだな?」中高と同じだった楠木からだった。


 一体、何年ぶりだろうか?多分、今のスマホに変えてからは、連絡した事無かった……忙しかったからな。

『おぅ、久しぶり元気してたか?』親友の声は何時もぶっきらぼうで、優しい。


「どうしたんだ?急に電話くれて?」この数年、音沙汰なしだった親友が急に連絡をくれたんだ。少し心配になってしまう。


『あぁ、柊さんから連絡が来たんだけど』成る程、柊さん関係って事は……。


『お前とたえちゃん付き合い始めたって?』だろうな、少し苦笑いをしつつ、


「付き合い始めたって、もう一年になるぜ?」自分で言っておいて何と無く感慨深げになってしまう。


『あぁ、それも聞いたよ?って言うか親友に位連絡よこせよ!?』スマホの向こうの鼻息を荒くして憤慨している楠木の顔が創造出来て、何と無く笑えた。


「悪いな、忙しかった……違うな?多分、余裕が無いのと……」たえの顔を思い浮かべる俺はあの頃……。


『たえちゃんに夢中になってたか?』いきなり心の中を覗き込まれたみたいな気がして焦る。

「ばっか……いやその……まぁ、そうかもな?」少し恥ずかしかったけど、それが正解なのだろう?


『けっ、やってらんないな?……でもまぁ、おめでとう』楠木からの声に、少し目頭が熱くなる。こいつは、何時も俺達の事を気にしてくれていた。二人で大騒ぎしていた時も、喧嘩した時も柊もそうだったかな?


「ありがとうな……それはそうと、お前はどうなのさ?奥さんと仲良くしてるか?」そう、こいつは高校時代に付き合っていた彼女と出来ちゃった……いや、授かり婚をしてたんだよな?

『……あぁ、まぁな』「……どうかしたのか?」トーンが落ちた声に、少し心配になって問い掛けると、

『去年、別れた』突然の重い言葉に何と言えば良いのか分からず出たのは、

「なっ……どうして?」というデリカシーも何もない言葉だった。

『まぁ、俺の事はどうでも良かったんだが?』「良くない!!良い訳無いだろ!?」

『数年、音沙汰無かった癖に良く言うよ』楠木の吐き捨てる様な言葉に、「わっ悪い……」言われて見ればその通りで、辛い時に連絡もしなかった奴が何を言ってるのか?自分で自分が情けなくなった。

『良いよ、お前はそれで良いんだ』「何が良いんだよ?」『俺だって、良く分からん』「何だよそれ?……悪い、お前のキツイ時に相談に乗れなかった」『気にするな、俺もその頃は、誰にも相談出来ずに一人で抱え込んでたからな』「そっか……でも、どうして?お前ら、仲が良かったじゃん」俺の言葉にスマホの向こう側から、ため息の様な笑い声が聞こえた。

『ほら、俺ら出来ちゃった婚じゃん?』「授かり婚な?」『どうでも良いよ、そんなの』

「あぁ、それで?」そう言って話してくれた楠木の言葉は、聞いている俺にも辛くて、そして何処にでもありそうな話だった話だった。


 卒業後、直ぐに結婚した楠木達は忙しいながらも幸せだった。しばらくして、第一子の長女つくしちゃんが生まれ、家族の為にも仕事を頑張ろうと思っていた楠木だったけど、仕事が忙しくなる程に、奥さんとの仲にすれ違いが多くなっていったらしい。


 育児を奥さんに任せきりにしたのも良くなかったかな?と楠木は苦笑していた。


 その後は、奥さんの方に好きな人が出来てって感じだったらしい。


 元々、奥さんの方は進学したかったらしく、授かり婚を後悔していたらしい。今となってはどうしようも無かったけどと言う楠木に、

「お前は、頑張ったよ」と言ってやるのが精一杯だった。

 しんみりした雰囲気になった頃、ドアの向こうで、たえがこちらを覗いているのに気付いてしまった。


「たえ、お前何してるの?」俺の言葉に、

『うぇ?たえちゃんいるのか!?』楠木から、うめき声が聞こえる。


「ごめんね?朝ごはん出来たから呼びに来たけど、電話中だったみたいだから」バツが悪そうにドアの隙間から顔を出したたえが、苦笑いする。

「楠木、少し待てよ?」俺はスマホの音声をスピーカーにすると、


『たっ、たえちゃん!?あの、そのおめでとう!!』楠木の慌てた様な声が聞こえた。


「楠木君、ありがとう!!」ゆっくりとエプロン姿のたえが部屋の中に入って来る。


『何だよ、もう一緒に暮らしてるのか?』少し照れながら、楠木の問いに答えようとした時、「お前、なんて格好してるんだよ!?」入ってきたたえの姿に、慌てた俺は思わず声を出してしまう。


『どうしたんだ、まこと?』「あの、いや何でもない。何でも無いんだ」慌てて、自分の言葉を取り消そうとする俺。口元に人差し指を立て声を出さずに、しゃべるな!!のポーズをするたえ。


 つい、口に出てしまったけど流石にこれは喋れないな。中に入って来たたえは、エプロンの下は下着のみで、俗に言う裸エプロンの格好で……。


 ジト目で、たえを見る俺に耳元で、小声で「ゴメン!!着替えるの面倒臭かったんだもん」と赤い顔をして謝るたえ。「悪い、まぁ俺も、びっくりしちゃってさ」小声で、つい声に出してしまった事を謝る俺。


『おーい、大丈夫なのか?』怪訝そうな声で、スマホ越しから心配してくれる、楠木に少し申し訳無い気持ちになりつつ、二人で赤い顔をしていた。









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