あおしの閑話 失ったものと得たもの2

《青葉まこと視点》


 全てがどうでも良くなってから一週間、俺は学校を休んでいた。


 表向きは足が痛むという話で、実際に痛くはあったけど学校に行けない程では無かった。ただ、今は何にも考えたく無かった。


 両親からの話では、俺の過剰な部活での活動が今回の怪我に繋がったのでは無いか?との指摘があり、学校内全体での活動の見直しをしようと言う事となったらしい。


 その対象になった人物は勿論、我が幼馴染み、忍野たえがいるのだが彼女は、意地でも部活を続けたいと言っているらしい。


 あいつらしいよな?と思いつつも、俺も同じ立場なら同じ様に言うんだろうな?そんな風に思ってしまう。


 ベッドの上で横になりながら部屋に張ってあるポスターを眺める。好きなJリーグのチームのポスターカレンダーだ。海外サッカーにも憧れていたけど、俺の原点は初めてスタジアムで見たJリーグのサッカーの試合だった。


 たまたま貰ったチケットで家族やたえと一緒に見た試合。後半三十分で0対2良くて引き分け勝ちは厳しい。

 横で応援していた、たえが「ねぇまこと、勝つよね?」泣きそうな顔で言った。

 そんなたえに俺は、

「負けねぇよ!!見てろ絶対に勝つ!!」

 そう言って、負けムードで静まり返るスタジアムで、覚えたての応援を一人始める。

 たえも一緒になって大声で跳び跳ねながら二人で応援を始める。


「オレーオレー♪」「オオレレー♪」

 近くで、小さく笑う声が聞こえた。

 少しムッとしてそちらを見るとハッピを来た大人の人が頭を掻きながら、

「悪い悪い、笑った訳じゃ無いんだ」そう言うと、


「おい皆、こんなに小さな応援団長様達が、勝利を信じて応援してるんだ!!俺達が負けてられるか!?」

 そう叫ぶと、スタジアムが一気にわき始める。


「行くぞサンバ隊!!」ハッピの男の人は大きく手を上げる。



 一瞬で静まり返るスタジアム。



 スティックがカンカンと叩く音が聞こえるとスチールドラムが太鼓が今日一の大音量を奏で始める。


「スッ凄い」「おぉー燃えて来たー」俺達は、目を輝かせて手を叩いて、喜んだ。


「君たちは俺らに大切なものを思い出させてくれた、後は任せて一緒に応援しようぜ!!」ハッピの男の人はニヤリと笑う。


 俺達は、頷いて応援を始める。


 強くリズミカルなサンバに乗って、乱れぬ応援が始まる。


 そうなると不思議なもので、リズムが大きな応援が味方チームに勢いを与える。


「そこだ!!決めろっ!!」「決めろー!!」味方サイドバックがライン際をドリブルして行く。相手側のディフェンダーを一人交わして逆サイドに大きくボールを渡す。

 スピード自慢の選手が一気にゴール際迄切り込み、シュートする!!ボールはポストに当たって跳ね返る。「「行けー!!」」ミッドフィルダーが跳ね返りを頭で押し込んでネットに突き刺す!!


 ……オー!!スタジアムが大きく沸いた。ゴールパフォーマンスをするかと思ったが、点を入れた選手は、ゴールに入ったボールをつかみ走ってセンターサークルに置いた。


 その選手は、ゴール裏の俺達に向かって指を指すと指をそのまま、自分の左胸に起きグーにして叩いた。


 その瞬間は大きくスタジアムは沸き立ち、応援は最高潮に達する。


 後半四十分味方のロングシュートが決まり、遂に同点に追い付き何故か点を取る度に俺達は、もみくちゃにされて、握手を求められて肩を組んで踊った。


「何か点を取った選手みたいだよね?」たえが髪の毛をボサボサにされながらも、近くのお姉さんとハグをして、俺は隣のお姉さんとハイタッチして、盛り上がった所で俺は大きな声で叫んだ。


「もう1点ーー!!」その声に、一瞬シーンとして、皆大笑い。「お前、良く通る言い換えしてるな!?」俺はキョトンとしていると、ハッピの男の人が「さぁ、一緒に応援しようぜ!!俺達で!!」


 その後の事は、あんまり覚えてない。


 試合に勝ったのは、覚えているのだけど皆にもみくちゃにされて、楽しくて嬉しくて、まるで俺が点を決めて勝ったみたいで……。


 帰りの車の中で、勝って貰ったレプリカユニフォームを来たまま、たえと応援の叫びまくり両親を呆れさせた。



「俺は、サッカー選手になる……か、残念ながら無理そうだな?」ベッドの上からギブスと包帯に巻かれた足を眺める。


「たえは、頑張っているのに、俺は……」


 ふと、部屋の隅にあるアコースティックギターのギターケースを見る。最近触って無かったな?


 何となく、ギターケースからギターを引っ張り出して音を奏でてみる。うん、ギターの弦は大丈夫そうだ。


 ピックを取り出して、コードをいくつかひいてみる。


 よし、久しぶりにやってみるか?


 俺は、たえの好きだった曲を奏で始める。


「状況はどうだい?僕は……♪」それは大切なものを無くした人が立ち直ろうとする歌、希望の歌だ。


 その時、階段を駆け上がる音がして、扉がバンと開いた。


「まこと!!今のは、まことなの!?」


 そこには、息を切らした、たえがいた。




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