恋人と婚約者って、どう違う?4

「まことの馬鹿……」恥ずかしそうにモジモジしながら呟いた、たえの頭を撫でてやり、一言「ごめんな」と呟く。


「こっちこそ、ごめんねまこと」少しうなだれた後、


「お兄ちゃん、まことに乱暴しないでよ!!いくらお兄ちゃんでも、許せない事があるんだから!!」それを聞いたアカギ兄さんが、あり得ない顔をして、

「いやいやお前が、泣いてたから、こうやって助けに来たんだろ!?」渋い声で言うアカギ兄さんをたえの声がばっさりと切り捨てる。


「そんな覚えまるで無いんだけど!?」たえの言葉に困惑するアカギ兄さん、小さな声で「いや、だってさ、あの時泣きながら、まことが、他の女の人に取られちゃったって、凄く酔いながらさ……」


 ちょっと待て?……酔いながら?凄く?……あぁ、その一言で全部が分かった気がした。


「たえ?お前、アカギお兄さんと話してたかも知れないわ?」


「えっ?どうして?」不思議そうな顔をするたえに、頭を抱えながら俺は説明を始めた。


「何々?名探偵の推理ショーみたいな奴?」「何だ?私はあの時とか言っとけば良いのか?」


「二人とも、少し黙ってて下さい」そんなに格好良いものじゃ無いよ、本当に情けない。


「何で二人とも、ワクワクした顔をしてるんですか?」大きくため息をつきながらたえの方を見る。

「覚えてるか分からないけど、一年前のあの日」「一年以上たってる」「……一年以上前のあの日、たえは家で飲んでたか覚えてるか?」途中、アカギ兄さんの茶々が入ったが気にせず、たえに質問する。気にしてないよ!!


「えっ?確かに飲んでたと思うけど、どうしたの?」


「その前にお前、俺が告白した時の事覚えてるか?」


「えー?今、ここで云わなきゃ駄目?」恥ずかしそうに頬を赤らめながらクネクネしているたえに、少し可愛いかも?と思いつつも、断腸の思いでゴホンと咳払いをして「駄目」と回答を促す。


「えっと、控え目に言って最高だった」「いや、そこじゃなくて!!」食い気味にたえの言葉に被せると、

「えー?違うの?」と首をかしげる。


「朝起きた後の話だ!!」「……朝起きた後?同じベッドでか、まこと?」「いやだから、問題はそこじゃなくて、何でたえに二度も告白しなきゃならなかったかって所だよ!!」あっぶねー、アカギ兄さんの目が急に猛獣の様な目になったぜ。


「エヘヘ、二度も告白されちゃった」デヘヘとニヤニヤし始めるたえと、アカギ兄さんの厳しくなる目に戦々恐々とする俺。

「お前、わざとやってないか?」そう言うと、何で?と言う様なあざといキョトンとした顔をする。


 あいつ、あとでおしおきだ。


「分かってるわよ、私がお酒飲んだ後は記憶を無くすって事でしょ?流石に、途中で気付いたわよ」ふーんだ、と言いながら頬を膨らませるたえ。真顔で、膨らんだほっぺたをブスッと刺す。ブーッという音を立てて口から空気が漏れていく。それを見て思わず吹き出す俺。

「お前ら、馬鹿だろ?」アカギ兄さんに言われたくは無いわ!!


「アカギ兄ちゃんに言われたくは無いわ!!」おぉ、息ぴったり。


「で、たえが、酒を飲むと記憶を無くすってのは、本当なのか?」胡散臭そうな顔をするアカギ兄さんに俺はこくりと頷く。


「俺は、二度程見てますから」隣のたえの頭をガシガシと乱暴に撫でると、モウッと怒りながら最後は笑うたえ。


「と言う事は私、お兄ちゃんに相談してたんだ?……ごめんね、あの後しばらくして誤解が解けて……ねぇ、まこと」熱い視線をくれるたえ。その視線に答える様に俺は、たえを抱き寄せる。


「こうして、付き合う事になりました。」ここは、俺が言った方が良いよな?


「ほっ本当にお前ら付き合えたのか?」信じられない物でも見たような顔をするアカギ兄さん。

「鉄板の幼馴染みとか、確定の負けフラグとか……」おぃ?

「両片思いのまま老けて行くとか、俺なんか良くお前の妹の髪、本当は青色ショートカット負けヒロインなんじゃないか?とかからかわれたんだぜ?」無言で殴りにかかったたえを、俺は後ろから羽交い締めして止めた。


「たえに、ちゃんと謝れよと言おうと思ったけど、今の暴言でチャラって事で良いですよね?」少しひきつった笑いをしながら、俺はアカギ兄さんに脅しをかける確認を取る


「おっ、おう」俺の勢いに、後退りするアカギ兄さん。


「私、ショートカットじゃないし青髪じゃないもん」


「もんって、お前もう二十四歳いやもう少しで、昔だったらクリスマスとかクリスマスイブとか言われる年だろ?」思っても言わなきゃ良いものを……俺は知りませんからねと今日何度目かのため息をつく。幸せが逃げそうだな?何となく、たえを抱き締めた。


「大丈夫よまこと、私もそれ位で怒らないわよ」本当は、違うんだけどな?


「お前達、本当に付き合い始めたんだな」しみじみと、頷きながらアカギ兄さんは目を閉じて考え込んでいた。


「それとねお兄ちゃん、この前まことがね」嬉しそうにたえは、俺の腕を抱き締める。


「プロポーズしてくれたの!!」


「なっ、あれはまことの狂言じゃなかったのか!?」


「ちょっと、俺だって本人がいる前であんな嘘言う訳無いでしょ?」何言ってんだこの人は?


「はー、参った。まさかいざとなったら、たえを連れて帰るつもりだったのが、あのたえと、まことが付き合ってて、プロポーズまでしていたとは……」また、しばらく考え込んでしまった。


「なぁたえ、アカギ兄さん大丈夫なのか?」「普段、頭なんか使わないんだから、これ位良いんじゃない?さっき好き勝手言ってたし」意外に根に持ってるな、少しムッとしているたえを見て俺は苦笑いしてしまった。


「よしっ!!」いきなり大きな声を出して立ち上がるアカギ兄さん。


「俺は、このまま帰る新幹線、間に合うだろ?」


「確かにまだ八時前だけど……」俺はスマホを取り出し、時計で時間を確認する。


「キンメの煮付けと味噌漬け、後サザエのつぼ焼きと伊勢エビの刺身持って来た。食え、じゃあな!!」そのまま、嵐の様に立ち去って行ってしまった。


 俺達がポカーンとしていると、バタンとドアが開き、またアカギ兄さんが現れる。


「お前達お盆には、帰って来いよ?これは命令だ。家族総出で迎えるからな?絶対だぞ?反論は聞かん!!」アカギ兄さんはそこまで言うと、今度こそ走り去って行ってしまった。


「嵐みたいな人だな?相変わらず」たえと顔を合わせて笑うと、二人でアカギ兄さんの残していったご馳走と、買って来たご馳走。たえの作ったシーザーサラダと美味しいお酒で家飲みを始めた。



「まっことっ、私、大分分かって来たの」「……何がっだ?」「その……もう言わせないでよ」「俺も、まぁ、良かった、かな?」「何が?」「言わせるなよ」


 暗い暖かい闇の中で、二人解け合うように……。


「里帰り、久しぶりだね?」「あぁ、それでさ家にも……来てくれないか?うちの両親がたえに会いたがっててさ……」「久しぶりだな、まことのお父さんやお母さんに会うの」

「うん……」「まことお眠?」「うん……」

「大好きだよ、まこと❤️」「うん……」


「……お休み、まこと」


 ……お休み、たえ






























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