第50話

「局長! この地下、龍脈の傍に悪性個体の本体がいる。今から俺が――!!」

「こんの盛りきった猿がぁ!!! ヒヒーン!! 絶対に許さぬぅ! 我が聖なる角で突き殺してくれるぅ!!! 我が乙女から離れろ!! すぐに抹殺してやる!!」

 説明してる途中で、血涙流しながら怒り狂った駄馬ユニコーンが俺のことを突き殺す宣言してくる……。なんなんだコイツ……。何が、『我が乙女』じゃふざけんな。穂乃香は俺のじゃい。お前の乙女は、志藤おっぱいさんだろうが。


「嫌だよ。話の邪魔だよ。悪性個体を処理し――」

「黙れ淫獣が!! 貴様のような汚れた存在は生きていてはいかんのだぁ!! ヒヒーン!! 我が清らかな乙女をその様に堕落させおって!! なんという外道! 恥をしれぃ! か~っぺっ!!」

『何とかしろ』

「……」

 主人志藤の方を見て何とかしろと視線で訴えるが、目をそらされた……。しっかり手綱を握って欲しい。みせかけ幻想種の。

 だいたい、誰が淫獣じゃ。お前だろそれは。この駄馬が。

 現在進行形で幻想種の恥を晒しているのはお前だよ。こっちはすることがあるんだよ……。状況を考えてくれよ……。あと、痰を飛ばすな! 馬肉にすんぞ!

 俺がイライラしているのを感じた穂乃香が、駄馬を宥めようとするが――


「お馬さん? 落ち着いて? 今は大事なことがあるから――」 

「いいえ! いいえ!! 乙女よ。私にはわかるのです……おいたわしい」

 奴は穂乃香の言葉を遮りなんか言い始める。

 ……いやだなぁ。もう帰ってくんないかな。

「猿と乙女の魔力が混じりあっている。こんな、こんなことは許されぬ……。猿、貴様ぁ! あの魔力膜の中で、乙女と交わっていたなぁ!!!」

「「「「「「!!!」」」」」」

 俺と穂乃香を除く全員の目がこちらを向く。

「「まじわってない(ません)!!」」

 何を言い出すんだこの駄馬は!? イカレとんのか!? あと、みんなしてこっちみんな!! してねぇよ! 童貞だよ俺はっ!


「嘘をつけっ! お互いの魔力がそのように混じりあって、繋がりができておるではないか! 【契りの儀】を結んだのであろう! あの、魔力膜の中で! すぐ傍に大勢の目がある状況に、こ、興奮しながら!! ヒ、ヒッヒヒーーン!! お、乙女をむ、むりやり……ヒヒーン!!」

 やっべぇ。この馬マジに気持ちワリィ。自分で言って、勝手に興奮してやがる。どんびきだよ。本当に幻想種か? 俗物過ぎる……。

 穂乃香もすごく嫌そうにしてるぞ。

 こっち向いてるやつの中に、鼻息荒くしてる上級者もいるけども……。

 そんな倒錯的な性癖を披露するんじゃない!(穂乃香による甘々赤ちゃんプレイ経験者)


「そんなことはしてない。大人のチッスをした程度だ。俺は童貞のままだ!!」(ドン!!)

「ひひーん? 確かに……貴様は童貞臭いな。乙女も魔力こそ混じっているが――清らかなままだな? どういうことだ?」

 しるか。一生考えてろ駄馬……。

「んなことより、局長! この地下、龍脈の傍に悪性個体の本体がいる!」

「……魔力膜が破れてどうなるかと思えば、穂乃香さんとキスして登場。そのまま、悪性個体を軒並み片付けたと思ったら――本体が別にいる、ですか」

 ただでさえやつれた状態がもっと酷くなり、虚ろな目でこちら疑うようにねめつける局長。

 ……なんだよぉ、お前ら四人がかりで俺の事虐めたじゃないか!? そんな、目で俺と穂乃香を見るんじゃない。俺たちは、愛の力により奇跡的なI'll be back達成できたんだぞ。いろいろピンチだったんだ! 決してずっとイチャイチャしてるだけだったわけじゃない!

「俺と穂乃香なら間違いなく処理できる。ただ――かなり大規模な魔力行使になる。穂乃香がある程度中和してくれるとはいえ、多少? 上にも影響がでる……かも? しれないケド……」  

「……いいでしょう。責任は私が取ります。……それと、貴方達には本当に申し訳ないことをしました。この程度で償いになるとは思いませんが、せめて思いっきりかましてしまいなさい」

「了解! あと、そんな気に病まないでくださいね。まぁ、思わないことがないってわけじゃないけど、立場とか、責任とかいろいろあったんでしょう? そこんとこ責めんのはちょっと俺も、なんか、アレなんで……」

「私は、ちょっとだけ怒ってます。漣さんが死んじゃうと思った時のことは忘れられない。……でも、奏さんだけの責任なんかじゃない。私の浅はかさが原因でもある。だからおあいこなんです。そんな辛そうな顔しないでください。またみんなで仲良くしたいから」

「…………ありがとう」 

 深い沈黙の後、やつれた顔ではあったけど、いつもの優し気な奏さんが震えた声で応えてくれた。

 


 むほほ~奏さんに許可とったど~♪ 

 いい感じで奏さんには話したが――俺はやられたらやり返す漢。責任はマカセタ。

 かますぜ、とびっきり濃いやつをよぉ!

「穂乃香!」

「いつでも大丈夫です、漣さん!」

「がんばれ~ほのちゃん~れん~」

「ヴぉっふ~!」

 


*後書き

そろそろ一章の終わりです。

感慨深い……。書くたびに寂しさみたいなものを感じる。

反省する箇所も多い。でも特別なんです。

読んでいただき、ありがとうございます。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る