第27話 天才?と暗雲

「漣さんっ!! 怪我してないですかっ!!」

 凄い剣幕で駆け寄ってくる穂乃香。

 俺の体をあちこち触りながら怪我がないか確認する彼女に、少々たじろぎながらも返答する。

「だだ大丈夫だよ!! 全然ヘイキさっ!」

 ちょっとヤバかったけど……。

「本当に?」

 彼女の綺麗な顔が迫る。


「う、うん。だいじょぶです」

「はぁ~……。よかった……」

「!っとと」

 少し憔悴した様子の穂乃香が、へたり込んでしまいそうになるのを支える。

「あっ! ごめんなさいっ! ありがとう、ございます……。漣さん──本当にごめんなさい、わたし――」

「大丈夫だよ穂乃香。そんなに気にすることじゃない。術はうまくいってた。…… が、なければ完ぺきだった」


アクシデントを強調し、元凶のポンコツワンコを軽く睨む。

「……く、くぅ~ん?」

 小賢しくも、かわいらしくポーズで切なげに鳴くワンコ。確かに非常にキュートだが――

(反省したまえよ? しばらくおやつ抜き)*思念

「すぴすぴ……」*愕然

「でも……、驚いて魔術を暴発させるなんて……」

「練習なんだから~、気にすることないよ~。だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ。ほのちゃんすごかったよ! それに! お歌! 凄かった! なぁにあれ!?」

 青いお饅頭染みたフワフワが、興奮した様子でふよふよと穂乃香の肩に飛んできた。

「漣なら大丈夫だよ~。ちょっと頭は弱いけど、結構強いんだから~。ねぇ~♪」

 俺に毒を飛ばしつつもフォローしてくれる青いふわふわ。

 可愛らしく小首を傾げたアオに俺はメロメロである…。

「ねぇ~♪ でへへ~♪」

「……ありがとう、アオ君。漣さん」

 アオのふわふわボデーに顔を押し当てながら、お礼を口にする穂乃香。


「……くぅ~ん」

 輪の中に入れずに寂しそうなわんちゃん。



「詠唱は起こしたい現象を思い浮かべながら、それを想起させるような言葉を紡ぎ、魔力を編むことで魔術の完成度を高める──みたいなことが、奏さんのノートに書いてありました。極まった詠唱タイプの人は、自然と言葉が内から溢れてくるって」

 ふむ……なるほど?

「ただ私は──守ることや、癒すことに意識が向きがちになっちゃって……。どうしても詠唱だと、攻撃の方向に意識をもって行きづらかったんです。だから、事前に、いろいろ言葉を考えてたんですけどね……。ちょっと恥ずかしかったですけど……えへへ」

 そういって照れくさそうに微笑む彼女。

 かわいい……。あぁ、なんてキュートなんだろうか。食べちゃいたいねぇ~。でへへっ。

 相槌あいづちを打ちながら、よこしまな感情を抱いているオレ変態


「さっきのは、咄嗟の思い付きだったんです……。別に深く考えたわけじゃなくて、ただなんとなく── 『あっ、ひょっとしたら、できるかも』って思って── 歌い始めたらすごいしっくりきて、自分でもびっくりでした!」


 やってみたらできちゃった♪ みたいな感じの穂乃香。

 う~ん……天才じゃないか? 俺、初めてやったけど── なんかできました! なんてこと一回もないんだけど……。普通はできないと思うんだけど。

「……ちなみに── どんなイメージで魔力編んだの?」

「えっと~、『剣で悪い奴をやっつけて! 絶対逃がさないっ!』みたいなイメージですね!」


 ……そう。いやもう紛うことなき天才だろ。

 だってあの魔術、完成度かなり高かったぞ。ポンタの邪魔さえ入らなければ、あの剣軍が全部が標的に殺到するわけだべ??

 おまけになんか……意志みたいなの感じたぞ? 穂乃香のイメージを余すことなく魔力で再現した結果なんだろうけども……。

 しかし、やり方一つでこうも化けるか……。まぁ──何はともあれ!

「穂乃香おめでとう。ちょいケチはついたけど、立派な攻撃魔術だった! ……受けた俺が言うんだから間違いないっ!」

 ちょっとだけ茶化して、彼女に告げてみる。


「むぅっ……。漣さん、イジワルです……」

 彼女は、とても可愛らしいふくれっ面を披露してくれた。

 うっひょう~~! かわえぇ~!……ごちそうさまです。*手遅れ

「でも……ありがとうございますっ!」

 快活そうな笑顔まで披露してくださる穂乃香様。《てんし》

 素晴らしいセットメニューだ! 毎日頼みたいっ!


「ほのちゃん、おめでとう~♪」

「……ヴぉッフン! くぅ~ん……。すぴぴ~」

「ありがとうアオ君。ポンちゃんもありがとう。大丈夫だよ、ポンちゃん。私、怒ってないから。そんな切ない声出さないで──ほらっ! わしゃわしゃ~♪」

「! ヴォッフ♪ ヴォフ~ン♪」

「ぼくもぼくも~♪」

 もふもふ二人と麗しい美女。そして──

 後方彼氏面の|オレッ!

 良かったね! ポンタッ! 明日はもっといい日になるよ!


 協力してくださったモンスターの処理も済ませ──帰ろうとしたその時


「ようしっ! じゃあ雨が降る前に──── んっ、どした? アオ?」

 アオが不安そうな顔でちょこちょこ俺に近づいてくる。

「漣……。なんか変な感じがする。さっきまで何も感じなかったのに……」

「アオ?」

かすみがかってて分かりずらいんだ。ゆっくりだけど……真っ直ぐこっちに来てる。気味が悪いよ……」

 先ほどまでの明るかったアオの表情が嘘のように沈んでいる。

「……距離は?」

「東の方角、森の方。五キロメートルくらい……」

 隠蔽かけてる同業の可能性もあるんだが……。な~んかきな臭いな。

「わかった──穂乃香っ! 直ぐに出るっ! ポンタに乗って── 」

「はいっ!! ポンちゃん!!」

「ヴォッフ!!」


 空は──今にも雨が降りだしそうだった。



「グヒッ! にが さ ないっ! 」







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