第16話 合格!!

 プールに行ってから、数日。

 連盟の訓練所にて――


 プールで遊んだ後の穂乃香の成長は、目覚ましいものがあった。連盟員や、俺からのアドバイスをうまく咀嚼し、自分に合った技術に昇華させている。また、失敗する度に、自分の悪かった点を把握し、次に活かす努力を惜しまない。


 ポンタの動きを予測することで、視覚外からの体当たりにも反応できるようになり、緩急をつけた動き、左右の動きにフェイントを織り交ぜた、翻弄するような動きにも対応できる。ポンタが見せる動きに反応できないことは――ほぼ無くなっていた。

 ついに――彼女の努力が、実を結ぼうとしている。


 穂乃香は凄まじいまでの集中力で、今までで最高の立ち回りをしている。

 ロースピードから、トップスピードの奇襲も、巧みなステップでの翻弄も、背後に回りこんでのからの強襲も――穂乃香は全てに対応し、捌ききった。


 残り十秒。

 互いの距離は5メートル、奇しくもスタート時の距離と同じ。

 小手先の技はもう通用しないと悟ったポンタは、最後に真っ向勝負を挑む。

「ヴォオオオオ!!!!」

 濃密な魔力を立ち昇らせながら、猛々しい咆哮と共に穂乃香に突っ込む。


 残り5秒。

 一瞬で距離が詰まる――

 穂乃香に動きは────……なかった。

 向かい合ったときと同じ姿勢のまま。


 ポンタの反応できていないのか――!? それとも咆哮と同時に拡散された魔力にあてられたか!?

 彼女が動かぬ理由を考えるが……。思いつかない……。俺が諦め――

 今回は……届かなかったか。……惜しかった。


「あと少しだ──── 」

 った、と呟く寸前にっ――

「なんとぉー!!」

「ヴぉふっ!!??」

「うそ~~!!」


 全くの予想外な行動に、間抜けな声が三つ響く。

 穂乃香が前にでた! 後ろや、横の動きで躱すのではなく前にっ!!

 確かに、現状とり得る最強の一手だろうが――っ!?

 ただっ!! 失敗すればただの怪我では済まない可能性が高いっ!!

 これはっ!…………クソッ駄目だっ!! とめなければ!! すまん穂乃香っ!!

 制止するための声を上げ、急ぎポンタと穂乃香の間に割って入ろうとする――

「そこまっ」

「止めないでっ!!!!!!」

「!?」

 彼女の鋭い声と、懇願するような響きを持ったそれに────

 逆に、こちらが止められてしまった……。



 結局、俺の心配は杞憂に終わる。どうも――彼女に対し過保護すぎるのかもしれない。

 彼女が優秀で、頑張り屋さんなのは、ずっと一緒にいて分かっている。

 此処一番で彼女を信じきれずに、集中しなければならない時に余計な手間を強いてしまった……。

 彼女の安全を考えるなら止めるべきだったし、成長を願うなら止めるべきではなかった。

 俺のやったことは、そのどちらでもない中途半端なものだ……。

「ふー、反省だなぁ……」

 忸怩たる思いと共に、深い溜息と呟きを漏らす。


 彼女は、ポンタの動きに完璧に合わせて見せた。

 ギリギリまで動きを見せずに引きつけ、直前で動きポンタの動揺を誘う……。  

 傍から見ていた俺でさえ、すんごく動揺した! 目の前のポンタの動揺はそれ以上だったろう……。素晴らしい虚実。

 後ろや、横ではポンタに反応されてしまうリスクがあると、あえて前に飛び込んだ。ポンタのフィジカル、突進時の速度、魔力による強化。

 前に飛び込むのは相当な勇気が必要だったろう……。それも僅かな接触も許さず、身体強化を施した自身のトップスピードでの敢行。

 見事という他ない──


 その後も「この追いかけっこ」は、穂乃香がポンタと接触するまで続いた。

「ふー……、ふー……、ふ―」

 疲労から地面に座りこみ、なんとか息を整えている穂乃香。

「……── 」

 声を発っすることがまだ困難なのだろう。視線で訴えかけてくる。

 タイムは? と。

「15分43秒!! 課題クリアだ! おめでとう穂乃香っ!!」

「……」

 一瞬、間ができる。そして──

「!!!!!!~~~~~~~~やったぁ~~~~!!!!!!」

 彼女の感情が爆発する。先ほどの疲れた様子が嘘のように全身で、自身の喜びを表現する。立ち上がり、ぴょんぴょん跳ね回りながらガッツポーズをとっている……。    

 どちゃくそかわいい。動画で納めたい。なんで準備しなかったんだ……。


「おめでとう穂乃香。よく……がんばっだ。グズんっ!! ぼんどうにえ゙らい゙!!」

 感極まってしまい、涙ながらの賛辞を贈る。

「おめでと~! ほのちゃん!」

「ヴォッフ!!」

 珍しく興奮した様子のアオが、彼女に飛び込んでいく。

 ポンタも、穂乃香に近づき健闘を称えるように吠える。

「ありがとう!! アオ君!! むぎゅ~~~!」

「ポンちゃんもありがとう! ぎゅ~~~!」

 自身の喜びを伝えるように、強くモフモフコンビを抱きしめていた。……俺もはいっていいかな? かな?


 たまたま? 見学していた幾人かの見物客お節介焼きも、賛辞を贈りながら彼女の元へ殺到していく。

「おめでと~!!!」

「よく頑張ったな!! 嬢ちゃん!! いいガッツだ!!」

「よく、あの陰険野郎の課題をよく乗り切った!!」

「よく頑張ったわね……。ぐすん……。立派だったわ!!」

 みんなが思い思いの賛辞を彼女に送る。

「最後のとこ!! よく前にでたなぁ! 心臓が止まったかと思ったぜ!」

「本当よ!! 穂乃香、痛いところはない? 漣のお馬鹿!!! 止めなさいよ!!怪我でもしたらどうするつもりよ!!! ホントにぼんくらなんだから!!!」

*ぼんくら=悪口・方言らしい


「あ~らぁ、いいじゃない。ほのちゃんが自身が望んだんだからぁ~。レンちゃんは、ほのちゃんの意志をを汲んであげたのよぉ~。ねぇ~ほのちゃん♪ よく頑張ったわね……。おねぇさん感動しちゃったわっ!!」(すごく野太い声♥)

「「「俺たちのアドバイスのおかげだなっ!!!」」」

「ちょっと、男ども!! 穂乃香ちゃんの綺麗な髪をっ! あんた達の不潔な手で触るじゃないわよ!!!」

「「「「俺たちの手はそんなに汚くないわいっ!!」」」」

「えへへっ、ありがとうっ!!  ございます!!   皆さんの!  おかげっ!  ですっ!!」

 彼女は、多くの人からもみくちゃにされながら――賛辞を贈られ続けている。

 その賛辞とガサツな男連中の親愛表現に、彼女は笑顔で応えていた。見るものを皆――蕩けさせるような笑顔で。

「「「「「でへへへへ」」」」

 何人かは、その笑顔を見て対照的な笑顔を浮かべていた……。俺も含めて。

「でへへへへ♪」


 穂乃香を讃えている中に、馬鹿が三人ほど交っているのが不快である。また、俺への罵倒も幾つかあったが……まぁ仕方ない。実際止めるべきだったかもだしな……。   

 野太い声のおねぇさん♥

 俺が改めて反省していると――


「漣さんっ!!」

 もみくちゃ状態から抜け出してきた穂乃香が、元気一杯に飛び込んでくる!――

「!!っ」

 突然の衝撃に驚きつつも、体全体で優しく受け止める。

 ガサツな男連中に頭を撫でまわされたのだろう……綺麗な髪が乱れている。

 だが、彼女はそんなことは気にも留めていない。


 みんなの賛辞が――

 彼らのぶっきらぼうな親愛表現が――

 彼女らの気遣いが────

 本当に、嬉しく堪らないのだと――彼女の顔が物語っている。

 なんて素敵ななんだろう。


「う~ん!!漣さん! 漣さん!! 漣さんっ!!!」

 俺の名前を連呼しつつ、顔を擦り付けて喜びを表現しているのだろう彼女。

「わたしっ! ご褒美が欲しいです!!」

 彼女が、俺の方を向きお願いを口にしてきた。俺はもちろん――

「ああ。俺にできることなら。穂乃香は、本当によく頑張ったから――」

 彼女の頑張りに、少しでも報いてあげたかった。

 乱れた髪を整えてあげながらそう――

 口にした瞬間────  

 彼女の目が光った気がした……。


「いま、何でもするっていいましたね?」

「えっ? ああっ。俺にできることなら……なんでも――」

「少し、屈んでもらってもいいですか?」

「? ああ、これでいい――!!」

 頭に手を回される

 彼女の顔が、きゅうに……ちかづいて……きて────


 ズキュウウウ~~~~~~ン!!!!!!

「             ぷはっ。えへへ~♡ ごちそうさまでした♪」

 きすされたった。……ぼく……ふぁーすときす。ほのか……きす??  ちゅう? ぱぱ……??

「…………」

 おれは、バグっていた。なにもわからん。

「「「きゃ~~!!!!」」」

「あらぁ~! ほのちゃんたら、だ・い・た・ん♪」(すんごいマッチョ♥)

「「「「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」」」」

「「「……やろぉぉぉうぶっころしてやぁぁぁぁるぅぅぅ!!!!」」」

 うるちゃい。


*後書き

 ☆と、おうえんよろしくおねがいします。(知能0)


 読んでくださりありがとうございます。

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