第15話 足手まとい

 訓練を始めてから数日たつ。あれから、穂乃香は「ポンタとの追いかけっこを」非常に頑張っている。タイムも少しずつ良くなってきている甲斐もあり、本人もとても嬉しそうだ。もちろん、オイラも嬉しい♪

 トレーニングだけでなく、連盟の図書館でモンスターの勉強も、ちょくちょくやっている。主に、長野近辺に出没するモンスターの生息地、特徴、弱点、解体時の注意などだ。


 外に行けば、依頼対象外のモンスターと接敵することなど、ざらにある。何事も事前準備が大切。その時々に、臨機応変に対応しなくてはならない。

 まぁ息抜き、休憩ついでに、か~るく頭に入れてくれればよかったんですが――彼女は物凄いスピードで知識を深めていた……。正直、もう俺より詳しいかもしれない……。俺もがんばろう……。


 

「悪性個体……」

 穂乃香がつぶやいた。

 人間だけでなく、魔力をもつ生物、環境、ほぼ全てに悪影響しか及ぼさない困ったやつらのこと……。そして――非常に危険。

 う~む、一応確認しておくか……。


「まぁ、絶対知っていると思うけど一応確認。とにかく逃げろ。絶対に近づくな。奴等は魔力を汚染するし、痕跡も多く残す。近くにいれば必ず気づく。とにかく異常を感じたらすぐに逃げなきゃいけない。……まぁそもそも、そんなめったに出てくるモンスターじゃないし、連盟が目を光らせているから、偶然遭遇なんてことにはまずならない」

*悪性個体が汚染した魔力は、タール状の粘ついたものに変化し様々なものに悪影響をもたらす


「……。はい」

 強張った表情の穂乃香……。

「大丈夫! もし近くにいたとしても俺たちの場合、アオがそういうのに敏感だから見つかる前に逃げられる。連盟に報告さえすれば、馬鹿みたいに強い専門の人が来て討伐してくれるから平気平気~♪」

 まぁ、危険度低いなら支部で対処させられるんだけども……。


「……はい。……でも――もし、見つかっちゃったら、どうしたらいいんですか? 漣さん?」

 彼女は、大きな怯えをはらんだ顔でこちらを見つめてくる。


 無理もない……。強力な悪性固体の誕生を許してしまい、大きな被害が出てしまったことは何度かある……。

 人類に協力的な幻想種様が直々に、出張ってくる羽目になったことも――今の人間にとって、恐怖の象徴みたいなやつだからな。

「……ふ~」

 胸に溜まったよどみを吐き出すように、深く息を吐く。


「そんときゃあ、まぁ、覚悟は決めなきゃいけないな。まぁ、生き物に反応見せないでひたすら龍脈目指して汚染する上、強力な個体に変化しようとするのもいれば、生き物に異常なまでに執着するのもいる。あんまよく分からない連中なんだが、人の集まる場所に誘導するのだけはやっちゃいけない……。死んでも。――まぁ、撒けるようなら全然逃げるけど。むしろ積極的に逃げることをお勧めするんだが! ……ただ、どうしようもないときはなぁ」


「覚悟を決める……。……ちょっと怖い……ですけど! ポンちゃん、アオ君、漣さんがいるならわたし――」

 精一杯の勇気を振り絞った彼女の言葉を遮る。彼女の献身を切って捨てる。

「いんや。そん時が来たなら、穂乃香は逃がす。もしどうしようもないときは、ポンタとアオを連れて逃げろ。俺が、足止めをする」

「――――」

 茫然としている彼女に重ねて告げる。

「俺一人ならまぁ、やれないこたぁないから大丈夫。わりと強いからね、俺。弱けりゃそのまま殺っちゃうし、やばけりゃ、時間稼いで逃げる。ただ――穂乃香にはまだ無理だ」

 

 彼女が茫然とした状態で言葉を紡ぐ。

「でも……私一人で? 漣さんだけを置いて逃げるの? ……そんなの……そんなの

いやだよ……。漣さん……私にだってできること――」

「悪性個体は、あらゆる魔力を汚染する。それは、人間も例外じゃない。奴らの影響を受けすぎれば、人間が悪性個体に変質する場合もある。ちょい、刺激的な内容だから、積極的に流してる情報ではないけどな」

「っ……」

「奴と直接接触などしようものなら、汚染は加速度的に進む。汚染された魔力を押し流すような高度な魔力制御ができないものは、奴らの前に立ってはいけない。……はっきり言う――穂乃香、足手まといだ。」

 突き放す。


「……はぃ」

 小さな返事と共に、俯いてしまった彼女。

 うつむく前のその瞳には涙が滲んでいた……。

 彼女のその表情を見た瞬間心が軋む。

 それでも――こればっかりは、なぁなぁでは通れない。強く言い聞かせなければ、穂乃香が危ないから。

 しかし――

「だけどな、穂乃香。今わ、だ。」

 言い聞かせるように、穂乃香に届くようにと思いを込めて言葉を紡ぐ。

「?」

 穂乃香が、静かに涙を溢しながらこちらを見上げてくる。ぽろぽろと真珠のような涙が、赤くなった瞳から零れ落ちる。


「穂乃香の才能ならすぐに俺と並べる。一緒に戦えるようになるのなんてすぐだよ。……まぁ俺は、穂乃香にあんなゲロキモイ生物の前には立って欲しくないんだけどね。だから――泣かないでくれ……。今だけは――俺に、穂乃香を守らせてくれ」


 俺は、穂乃香の涙を拭うために――

 ポケットから綺麗なハンケチーフ……を……ない。

 ……仕方ないので、コートの「魔力ぽけっと~」から、でっかいタオルを取り出す……。おしゃれなハンケチーフは……入ってなかった。

 ごめんよ穂乃香……、ガサツな野郎で。


 しかし彼女は、ダメな俺に向かって――

「はいっ♪ 今だけ、漣さんに私を守らせてあげます。だから――私から離れないで! しっかり守ってくださいね!」

 そんな言葉と、見惚れるような笑顔を見せてくれた。

「あい! ぼくがんばりましゅ!」


*悪性個体

魔力を持つ種が何かをきっかけにして変質する。いくつかのタイプが存在する。危険度も様々。大抵すごく気持ち悪い見た目をしている。(触手うねうね)

人間が変質した事象あり。

汚染された場合、対象方はいくつかある。魔力で押し流すのがベターだが、できない人は、汚染された部位をぶった切るのが、手っ取り早い。汚染はどんどん広がっていくぞ♪

押し流せなくても、抵抗して汚染を遅らせるなども可能なので、切りたくない人は頑張って抵抗して高位の術者に汚染された魔力を押し流してもらおう。


応援とコメントおねげぇしやす。

☆もくだせぇ。

読んでいただき感謝です。


ちなみに皆さんは、ハンカチ持ち歩いてます?(私服)きっと持ち歩いていることでしょう。エチケットですから! 私の場合は、くしゃくしゃのハンカチがよく出てきます! 

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