第1話 第一の相談者

 事務所の自動ドアが開き、初老のご夫婦と息子さんらしき男性が入ってきた。

 

 「こんにちわ、予約した佐藤です。」


 「七星剣 蓮行政書士事務所にようこそ、どうぞ、こちらにおかけください。」


 私は手早く用意していた白折緑茶

 を器に注ぎテーブルに置く。


 「今日は相続土地の相談で宜しかったですか?」


 「はい、こちらの不動産の相談です。」


 佐藤さんは持ってきた黒い皮のビジネスバッグからクリアファイルに挟んだ幾つかの書類を出してくる。


 「30年ほど前に田舎の母が亡くなって誰も住まなくなった家と田畑なのですが、私も息子もサラリーマンで田舎に帰る予定はありません、地元の不動産会社に買い手をずっと探してもらってますが、手数料がかかるばかりで一向に売れる兆しもありません、不便な場所ですしね、村に寄付も申し出ましたが断られました、どうしたものかと思ってこちらに相談に来た次第です。」


 「なるほどわかりました、新しい相続土地国庫帰属制度を利用するにはまず却下事由に当たらないことが条件です。」


 「まず第一には建物の存する土地は直ちに却下されると定められていますので、家が残っている場合には申請が通らないことになっています。」


 佐藤さんには落胆の表情が見える。


 「ここは相談会ですから申請を通すための条件を整理してみましょう。」


 「よろしくお願いします。」


 私は参考資料を、提示する。


 ⑴申請ができない土地(申請の段階で直ちに却下となる土地)

 ◯建物の存する土地

 ◯担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地

 ◯通路その他の他人による使用が予定される土地が含まれる土地

 ◯土壌汚染対策上の特定有害物質により汚染されている土地

 ◯境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地


 ⑵帰属の承認ができない土地(審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地)

 ◯崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち。その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの

 ◯土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地

 ◯除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に依存する土地

 ◯隣接する土地の所有者等との総称によらなければ管理・処分ができない土地

 ◯通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する以下の土地

 ①災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせる恐れを防止するための措置が必要な土地

 ②土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地

 ③国による整備(造林、干ばつ保育)が必要な森林(山林)

 ④国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地

 ⑤国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地


 「提示いただいた書類を見る限り、佐藤さんの場合には、家の解体を行っていただき滅失登記を行えば可能かもしれません。」


 「ここからは家を解体したと仮定して申請の流れを説明します」

 

 「佐藤さんの土地は、市街化区域には属していないようですので負担金は承認後に20万円必要と見込まれます、申請時におおよそ14,000円の審査手数料がまずかかります。」

 「当方への報酬については、書類作成費用その他〇〇円及び実費を予定しております。」

 

 「なお、農地であっても本申請前に国庫帰属による所有権移転に係る農地法第3条第1項に基づく農業委員会の許可取得は不要です」


 「その後、国が所定の審査を行い、承認されれば負担金の支払いを行います、そして納付が完了した時点で所有権は国に移ります、登記は職権で行われますので佐藤さんが登記申請する必要はありません。」


 「ということで、佐藤さんの負担は建物の解体費用と滅失登記、審査手数料、審査終了後の20万円の納付、当方への報酬、この合計額が見込まれます。」


 「土地を手放す側が費用負担するというのがちょっと違和感がありますね。」

 佐藤さんが率直な感想を言った。


 「そうですね、この負担金は10年分の管理費用に当てられるということです、売れない土地に国の税金を投入するのには他の国民の理解が得られないという側面もあるのかも知れませんね。」


 「ありがとうございます、検討してみます。」

 「また何か不明点があったら相談してください。」

 佐藤さんは相談料5500円を支払って帰っていった。

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