お嬢様、ではなくて
鈴乱
第1話
「お嬢様、ね……」
私はそう呼ばれるのが、あまり好きではなかった。
『お嬢様』。その単語は私をこの家とこの土地に縛り、自由を許されない存在だと突きつけてくるからだ。
『私はもっと……広い世界を』
自室の窓枠に触れ、外を眺める。家々の向こう、まだ足を踏み入れたことのない場所がどれだけ存在しているのだろう。私は自分のこの足で、新しい土地を踏みしめて歩いていきたい。ただ、ひたすら、新しく素晴らしいものをこの目に宿して生きていたい。私に備わった全ての感覚を研ぎ澄まし、この世界を体中で体感したい……。たとえ、それが誰かの道を妨げることになったとしても……。
「お嬢様? 聞いておられますか?」
怪訝な声に我に返る。
「あら……、ごめんなさい。少しぼうっとしていたわ」
「おつかれなのですか?」
「いいえ、大丈夫よ。それで、何だったかしら?」
上品に、丁寧に、貴族らしく。
不敬を買わぬよう細心の注意を払って、言葉と態度に気を配る。
不敬を買えば、一家と一族を路頭に迷わせ、苦難の人生を与えてしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。
ずっと、そうやって教わってきたのだ。貴族は貴族らしく。皆の手本となるようにあれ、と。
『いっそ……』
よろしくない考えが浮かぶ。
『いいえ、いけない。そんなことを考えては……。そんなことを願っては……』
――いっそ、誰か私を
お嬢様、ではなくて 鈴乱 @sorazome
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