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「やぁ、遅かったじゃないか」
夜の一人きりの海は怖かった。
得体の知れない
でかい満月が、やたらに美しかった。
「座れよ」
血塗られたコートはすっかり乾いて、月を映す海の上に浮かんでいた。
「狭い」
「まぁ少しゆっくりしようよ、ライ」
潮の香りがした。
温度のない
預ける資格のない背中を、
ただ暗い水平線を眺めて、時々海が光る。
こんな俺が生きていてもいいのだろうか。
「来たかったんだ。ここに」
「結局いつもと同じじゃないか」
「まぁね。好きだからさ」
俺には分からなかった。
「どうして忘れちゃうんだろうな、
「忘れられた景色なんてひとつも無いんだろ。お前が言ったんだ。今ここにある海も、空も、星も、あの気味が悪い化石も、全部それ自体が自分を覚えている。ずっと。それでいいだろ」
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