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「ライ」


 何度呼ばれただろうか。


 お前に呼ばれるその名は、次第に特別な光となっていく。


「この真珠はね、本当にただの真珠なんだ。なんの変哲もない、ただの真珠だ」


「ならなぜ、後藤ごとう崎山さきやまもお前も、それにそんなにこだわるんだ」


 そう思っているのは俺だけかもしれない。


 お前の声も、考えもそのすべては俺のためではなくお前自身のものだ。


「真珠の作り方は知ってるだろう?殻にこもった柔らかい部分を、わざと傷つけるんだ」


「そうすると、傷を守る反応が起こって、真珠が生まれる」


 まるでお前みたいに。


「僕みたいだろう?」


 心を読まれて、瞳の色が変わるのが分かった。


 俺の瞳は生まれつき、心に波が生まれると青い色に変化する。


「これは、機関の上層部が戯れに作ったただの真珠だ。……ある実験の最中にね」


 これは訊いてはいけない。


 ……本能的にそう思った。


 けれど、お前から目を逸らせない。


「人類の禁忌……時を遡ること、そして……」


人間ヒトのAI化……」


 鼓動が跳ねる……息がうまくできない――。


「これはAI化実験のテストで試行された愛玩動物型AIの核から生まれた真珠だ」


 こいつが後藤ごとう崎山さきやまに狙われる理由。


 ――組織に守られない理由。


「どうしたライ?……お前の瞳が一番綺麗だよ」

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