薄明のハイドロレイダー

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　土砂降りの路地裏に、交通事故に遭った猫みたいに横たわっていた男……それが神（ジン）との出会いだった。

「二課の……関野（せきの）雷三（ライゾウ）か……起こしてくれるか」

「なんで俺が」

　国連科学開発省環境開発部第二課配属、科学者、神（ジン）ラーシュ。各国の博士号を持つ鳴物入りで同期で配属されたこの男から、俺は距離を取っていた。……嫉妬からだ。

「介抱し慣れているじゃないか。猫でも飼ってるのか？」

　飼っていた。でも俺はもう猫は飼わない。

「後藤崎山（ごとうさきやま）　五郎太（ごろうた）にやられたのか」

「やらせてあげたんだよ」

　血の匂い。何でもないように目を細めて神（ジン）は笑い、格式高い名前だよね、後藤崎山（ごとうさきやま）主任って。とすら言った。

「見て、ライ」

「ライ？」

「タメだし、いいだろ？」

「何を持ってる……」

　神（ジン）の傷だらけの開きにくそうな手を解く。

「優しくしてくれたまえ」

「チッ」

　血溜まりの中の小さな真珠。雨が赤を薄くして、純粋な白が揺れている。

「後藤崎山（ごとうさきやま）主任が持ってた。俺が盗んだってバレたんだけど、知らないって言い張ったんだ」

「なんで俺にそんなこと……」

「さあね」

　真珠（それ）が何かは分からなかったが、手を伸ばしてはいけない……けれど。

「ライ、もう眠いんだ……」

「俺は犬じゃねぇぞ」

　眠りについた神（ジン）を、俺は運んだ。