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「「「ただいまー」」」


「おかえり……」


 カレーでお腹一杯になった充足感一杯の体を、アタシは畳から無理やり起こした。


「そこでそうちゃんに会ってさ」


 ランドセルを部屋の隅に放り投げて、わくわくを抑えられない勢いで弟が食器棚からカレー皿を取り出す。


「俺は、そこで玲鷗れおん純之助じゅんのすけに会ってさ」


そうちゃん……今日は残業って言ってなかったっけ」


「俺がカレーの香りに気が付かないわけがないでしょ?」


 ……どんな嗅覚してるんだ。


 基本的にすぐに家に帰りたがるジュンも、そうちゃんが一緒だと来ることが多い。母に少し遠慮しつつも、スプーンを運ぶのを手伝っている。って玲鷗れおんはさァ!親戚のおばちゃんじゃないからね!


 ……まぁ今日はカレーだしね。


 サッシの向こうに、生温い風が吸い込まれて行く。


 この分だと、三姉妹も来るかもしれないな……。特に幸子さちこはカレーが大好きだからね。


 新しい暮らしが始まっても、変わらない温度もそこにある。


 それはなんだかため息も出るけれど、アタシの存在をここにとどめる触れがたい分銅みたいな、近くて遠い景色だ。


あね!今日のカレーどうだった!?」


 すでに銀色のスプーンを構えた弟の瞳は、キラキラに輝いている。


「おいしかったよ」


 アタシにはそれが、切なくてまぶしい。




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