306
真っ白な明るい空間から、薄暗いトンネルを進むと、深い青い世界。
珊瑚の間を楽しそうに泳ぐ、黄色や桃色や青い魚。
カクレクマノミとナンヨウハギ。
黄色い
あらゆる海に繋がる窓みたいに、ほんの少しだけ、自分ではない何かになれるような時間が訪れる。
隣にいる腹心の友の瞳も、同じように煌めいている。
七色の光の中を揺れる
怪しくも美しいこの生きものたちは、見知らぬ生きもののようで、自分みたいだ。
「綺麗だね……」
悠久に思える時間がゆっくりと過ぎて行く。
「こうしてると、全部、良くなるね」
水の中をゆっくり
静かに、ただ、ゆるやかに。
「そうだね」
それは穏やかで、優しさに溢れているように思う。
ずっとこんな時間を望んでいた。
ただそこに存在する優しさ。
美しく、穏やかな。
「ねぇ、ニュースで見たんだけどさ、ほっしぃ、ブルーホールに行ったんでしょう?」
ショーコがぽつりと言った。
「えっ?」
水槽の周りは、ひんやりとしていた。
本当の温度は分からないけれど、そう感じた。
「行ったよ」
怖かった。
「怖かったよ」
ショーコが驚いたようにアタシを見た。
「……そっか」
「でも綺麗だったよ」
「そっか」
ショーコの瞳は、海月を見ていた。
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