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「いや、ジュンの城じゃないし」


 アタシも薔薇バラの細工のロッキングチェアに座って窓の外を眺めた。


 鳥のさえずりでも聴こえてきそうな大森林と、コバルトブルーの湖……


「どうぞ」


 紺碧の優美な曲線で縁取られた真っ白なティーカップと淹れたてのダージリンの香りが、早起きしたアタシの心を嬉しくさせる。


 ブラウンと白、薔薇の装飾が基調となった洋館のリビングダイニングは、クロワッサンとバターの香りで溢れていた。


「ほっしー、純之助じゅんのすけ、待たせたな」


「おはよ、玲鷗れおん。いいねココ」


「だろ?」


 同じく、装飾が施されたチェア座ったHylabハイラボの詰襟を着た玲鷗れおんは、古い時代の貴族の令息のように見えた。


 なんでアタシが早起きして、美しい湖畔の洋館のダイニングでお茶をしているかというと、ココはHyLAハイラが持っている施設なのだ。


 田沢湖の底に作られた、2組の教室があるHylabハイラボ-Aquareaアクエリアの入口が、この洋館の裏にあって、ココは関所件、スタッフの保養施設となっている。

(予約すれば誰でも利用可能だ)


 今日は化学の授業の履修のために、早起きしてココに来た。


 せっかくだから、おいしい朝ごはんを食べたいし。


 ふんわりとオムレツのいい香りと、クロワッサンの香りが運ばれて来た。

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